第46話 「通り過ぎる過去」
*二度目の恋 君に逢いたくて…第46話
コソコソ…

朝からローリーを訪ねて来たはずなのに、なんでか沙織、鈴之介と朝食を召しあがったゴルゴ。はっきり言って飯なんか食った気がしない。
沙織は変な事を言い出すし、鈴之介は面白過ぎる。それに彼女とはもう、ケリがついたはずだ。さっき彼女が自分自身でそう言ったじゃないか。だろ?

それなのに沙織は何故、またデートしようなどと言いだしたのか…。
「ちくしょう~…どうも調子が狂うな…」

「って言うか、朝っぱらから鈴之介で遊んでる場合じゃねーべ?
そもそも俺はローリーに会いに来たんだっつーの!あいつ…いるかな…」
と、ゴルゴは再びローリーを とっ捕まえようと、決意を新たに背筋を伸ばした。
「よ~し…今度こそビシっと決めるぞ。うだうだ悩んでても しゃ~ね~し…」

「そうだ、俺は決める時には決める、そう言う男だろ?今度こぞあいつに向かってズバリとだな…お、俺は お前がす……す……すき…」
「やき…」

「ちゃうちゃう。だからそうじゃねーって言ってるべ?何度言ったら分かるんだ!俺!
だからつまりその…俺はだな…俺は お前が…すすすすす……」
「好き…
…」

「ゴルゴさん、何してるんですか?」
「わ!びくった~~」
「どうしたんですか?こんな雪の日に?」

「こ、このみちゃん……お、おっは~…」
「いえ、もうお昼ですけど?」
「え?昼?いつの間にそんなに時間が…」
「しかもゴルゴさん…こんな雪の日に、ずいぶんと元気ハツラツな服装を…
寒くないんですか?」

「さ、寒いっちゃ~寒いけど…」
「や、あのさ…その…ちょいと近所をジョギングしてたらさ、
た、たまたまこの近くを通りかかってだな…」

「ローリーでしょ?」
「はい?」
「ゴルゴさんたら(笑)ローリーに会いに来たんですね?」
「う…うん…まあ…その…」

「クスクスクス…隠さなくてもいいのに(笑)」
「べ、別に隠してる訳じゃ…」
「でも残念。ローリーはいないの。朝から買い物に行くって出かけて行ったのよ」
「買い物…。そか…それならいいんだ…うん…」

「後で電話してみれば?」
「それがあいつ…電話に出ないんだよな…」
「電話に?」
「うん。ずっと電話してんだけどさ。このみちゃん、なんか聞いてない?」

「ううん…なんにも聞いてないけど……でも…」
「このみ…。私ね、やっぱりゴルゴには何も言わない事にした」
「言わないって…どうして?」

「このみと一緒よ…。私にも色々と事情があるの…」
「事情って…」
「もうヤメ。その話は落ち着いたらちゃんとするから。ね?」
「でも…」

「でもはなし。それよりこのみはどうしたの?
何が用事があって来たんじゃないの?まさか雪だるまでも一緒に作ろうってか?」
「なに?なんか聞いてる?」
「う、ううん、何も聞いてないよ…」

「そか…。まあ…いねーんならしゃ~ねーな。今日は帰るよ…」
「うん…」
「あ、そう言えば! このみちゃん、引越しの準備は終わった?」
「え…」

「引越しだよ。このみちゃんも俺らと一緒にサンセットバレーに行くんだろ?
俺、嬉しくてさ。このみちゃんと一緒なら向こうでの生活も楽しみだよ」
「あ、ああ…」
「俺なんてたいして荷物もねーから荷造りなんて1時間もかかんねーで終わっちまってさ。あ、そだ。でかい物とかさ、動かしたりするの大変だろ?俺が手伝ってやるよ」
「ゴルゴさん…」

「なんなら今日でもいいぜ。どうせ暇になっちまったし」
「ゴルゴさん…あのね…」
「ついでに亮も呼ぼうか。んでうまいもんでもおごってもらって~」
「ゴルゴさん!」

「あ?」
「あの…ごめんね…私…その…サンセットバレーには行けなくなったの…」
「行けないって…え、なんで?」

「なんでって その………かれたから…」
「はい?」
「私ね…亮さんと別れたのよ。だから一緒には行けないの」
「別れた?え?誰と誰が?」

「だから私と亮さん…」
「私と亮さんが わか…? ホワイ?」
「ちょ…なに?俺をからかってる?」
「ううん…からかってなんかいないよ。ほんとよ…私と亮さん、別れたの」

「ま、またまた~~ちょっとケンカでもしただけだろ?そんなのすぐに仲直り…」
「ううん!もうダメなの」
「このみちゃん…」

「私が悪いの…だから…」
「マジかよ…」
「ごめんね…」
「いや…俺に謝られても…。でも、なんで?なんかあったのか?」

「だから私が…うん…私が悪いの。亮さんに非は全然ないわ…」
「非はないって……俺が聞いてるのは そう言う事じゃなくって…」
「ごめん、今は説明したくないの。とりあえず今日は帰ってくれる?
私、これからバイトなの…」
「でもさ…」

「ほんとにごめん、でも今は何も聞かないで…」
「だけど………。 いや…そうか…分かったよ、帰るよ…」
「じゃまたね…」

「あ、ああ…また…」
(なんだかまだよく把握してないんだけど…。
えと…だから このみちゃんは とにかくサンセットバレーには帰らない訳で…)

(何故なら二人は離別したから…
離別と言う字は「離」と「別」 つまり二人は…別れ…た…)
(な、なななななな ななんだとーーーーー?姉さん、大事件です!)

(って俺には姉はいねー)
(そう、彼は悪くない)

(いいえ、誰が悪いんでもないわ…)
パタン

(ただ私と彼の運命がスレ違っただけ。それだけよ…)
コンコン

「亮様、お電話が入っております」
カチャ
「失礼します。サンセットバレーのチームの監督からお電話が……」


「亮様…お酒を飲まれているのですか?」
「少しだけな…」


「ですが今朝から何も召し上がっておられないのに体を壊します」
「大丈夫だよ、ほんとに少しだから…」
「それより、悪いんだけど、カイル。
監督には後で俺の方から電話するって伝えておいてくれないか?」
「え、ええ…それは…。かしこまりました…」

「それから俺はこれからちょっと出かけてくるわ」
「これから…ですか?あの…しかし亮様は お酒を飲まれていますし、
それに今夜は雪がひどくなるようですので…」
「行ってくる」

「亮様…?」
カチャ…
「おはようございま~す」


「あれ?ローリー、買い物に行ったんじゃなかったの?
それに今日はシフトに入ってなかったでしょ?なのに何やってんの?」
「このみ、おはよう。買い物に出たのはいいんだけど、なんか気が乗らなくてさ。
どうせ暇だったからシフトに入れてもらったの。ちょうど金欠だしね」

「そうだったんだ。そう言えばさっきゴルゴさんがアパートに訪ねて来てたわよ?」
「ゴルゴが?」
「うん。ローリーに会いに来たみたいだったけど」
「そう…(なんでアイツが?)」

「ローリーが電話に出ないって言ってたよ?」
「ああ…シルヴァーからの電話がウザくて携帯をバックに入れっぱだった。忘れてたわ」
「え?シルヴァーさん、しつこく電話してくるの?」
「う、ううん!そんなんでもないけどさ…でも大丈夫よ、そのうち諦めるでしょ」

「諦めるって…それってローリーとヨリを戻したいって言ってきてるって事?」
「違う 違う。無理やり追い出したから文句の一つも言いたいんでしょ。
それだけよ、気にしないで」
「そうなんだ…。シルヴァーさんも早く自立してくれればいいのにね」
「まーね…」

「でもさ、ローリー。ゴルゴさんの事、ほんとにいいの?
何か事情があるってローリーは言ってたけど、もし たんなる喧嘩なら…」
「ごめん、その話はまだ言いたくない」
「う、うん…そうだよね、分かった…」

「なに?ずいぶんアッサリと引き下がったわね?」
「だってローリーが言いたくないって時は何を言っても無駄だから」
「ほ~あんたも進歩するんだね(笑)」

「でも、ありがとう。あんたにはそのうち、気持ちの整理が出来たらちゃんと言うから」
「それにね、ゴルゴと何かあったって訳じゃないんだ」
「そうなの?私はまたてっきりゴルゴさんと言い合いか何か…」

「ううん、そうじゃないの。私の事情がほんの少し変わったの」
「ほんの少し、思わぬ出来事が起きたから…」
「なんだかよく分かんないけど…でもいつかローリーが話してくれるのを待ってるから」

「いつかか…」
「ううん、きっとすぐだと思うわ。嫌でも話さなきゃならないと思うから…」

そう言いながら、ローリーは お腹に優しく手を置いた。
-数日後-
「おい、亮!亮、いるか!」

「亮!」
「ゴルゴさんでしたか。どうされたのですか?そんなに大きな声を出されて」
「亮はいる?」

「亮様でしたら あいにく出かけておりますが」
「出かけてる?どこへ?」
「さあ、何もおっしゃらず出かけて行きましたので…」

「アイツ最近、電話にも出ないんだよな。
ねえ、マジでいないの?マジでマジでマジでいないの?」
「マジでマジでマジでいません」
「ところでゴルゴさん、亮様の事なんですが、何かあったのでしょうか?
ここ最近、いつもと様子が違うと言いますか、変…と言いますか…」
「何かね…(あったべ?このみちゃんと別れたんだから)」

「食事も召し上がらないで お酒ばかり飲んでいるようですし、
それに夜も寝ておられないようなので…少し心配です…」
「ふ~ん…」
(夜も寝てない…か。 って事はやっぱ…亮の方が振られたのかな…)

(だってこのみちゃんは「私が悪いの…」とかって言ってたけど、
それって女が男を振った後に、一番使われる ありがちなセリフだろ?)
(亮の様子もおかしいって事だし…ぜって~アイツの方が振られたんだな…。
しかも結婚間近でバッサリと。あーあ…亮は ああ見えて案外、弱いからな…)

(特に女に関しては意外とモロいとこあるしよ…
前のリンダって女?あの子の事でも相当引きずってたようだったし…)
はっ!
(まさかアイツ…変な事でも考えてんじゃねーべな?)

(例えば…例えばの話、やぶれかぶれになって「もう生きててもなんの価値もない!
俺なんか…俺なんか~!」とかって湖に身を投げちゃったり?)
(い…いやいや、まさかまさか。アイツに限ってそんな事はねーよな…。
それは大袈裟としても、落ち込んでる事は確かだ…。ここはもう少し様子を見た方かいいかもしんねーな…)

(そうだ…ヘタに追い討ちをかけるような真似して、
もっと追い込んだりなんかしたら、それこそ湖にドボン。はあ…そんでなくてもローリーの事で頭いてーのになんなんだよ~)
「あの…ゴルゴさん…」
「あ?」


「百面相をしてないで その…亮様の事なんですが…」
「ああ、大丈夫だろ。このみちゃんと別れたせいで湖に身を投げるって言っても、
俺の考え過ぎかもしんねーしな……」
「え?別れた?湖に身を投げる?」

「あ?」
「今、別れて湖に身を投げるとおっしゃいましたか? …も、もしや亮様とこのみ様が…?!」
「あ、いや、俺も何がなんだかさっぱりなんだけどよ…
まあこの話は聞かなかった事にして。あんまり俺がベラベラと…なにやってんの?」


「電話です。亮様に」
「ちょ…ちょっと待ってくれよ!亮に電話って、電話して何て言うつもり?」
「もちろん、早まった真似をしないよう、説得するのです」

「説得って…だから それは俺の勝手な妄想であって…」
「それにあの二人は別れてはなりません。
何故なら、あんなに お似合いの お二人はどこを探してもいないからです」
「い、いやいやいやいや、ちょっと待って!
マジでマジでちょっと待ってってば!頼むから~~!」


「ダメです、留守電です」
「お、おどかさないでくれよ~~」

「しかし…どうして亮様とこのみ様が…」
「なあ、ここはさ、知らんふりしてた方がいいと思わね?
あんまし問い詰めて もっと話がこじれると大変だしさ…」

「ですが鉄は早いうちに打てと申しますし。あんまり溝が深まりましても心配です…」
「それもそうだけどよ…」
「とにかく、お二人は絶対に別れてはなりません。さっきも申し上げましたように、
お二人はとてもお似合いなのです。そう、あなたとローリーさんのように」

「え?」
「あなたとローリーさんですよ。あなた達も とてもお似合いですよ」
「ってあの…俺さ、カイルにローリーの事、言ったっけ?」
「この間おっしゃってたじゃありませんか。ほら、食事をしながら私に」

「あ、あれはあくまでも友達の話でだな…って言うか今は俺の話じゃなくて亮の…」
「ですから!いいですか?さっきも申し上げましたが、早いとこ、鉄は熱いうちに打った方がよいと、私は思いますよ」
「だからカイル…あれは…」
「あれはもクソもありません。早いとこローリーさんを とっ捕まえなさい!」

「とっ捕まえるって……カイル…」
「さて、では私はお部屋の掃除をしてまいりますので」

「ちょ…」
「やれやれ…鉄は覚めたら にっちもさっちも行かないのに…」


「ちょっとぉ~~~!」
カラン…


「もう一杯くれ…」
「お客様…少し飲みすぎでは…」
「いや、大丈夫だ。頼むから酒をくれないか…」
「ですが…」

「大丈夫だから…」
「かしこまりました…」
そうだ、確かに飲み過ぎてる。だけど全然酔えないんだ…。
こんなにキツイ酒を何杯もガブ飲みしているのに、酔うどころか頭はスッキリと冴えてやがる。

亮は自分が女に振られて酒に溺れているのを、心のどこかで笑っていた。
これじゃまるで安っぽいメロドラマだ!はたから見たらさぞかし笑えるだろう。
まさか自分がこんな風になるなんて…。俺はこんなに弱い人間だったのか?
何もしたくない、何も考えたくない程に崩れる程、弱い人間だったのか?

リンダの時はどうやって乗り越えた?あの時も俺はこんな風にボロボロになったはずだ…
それでも俺はちゃんと自分を取り戻した。なら、今度もそうすればいい。
だけどこんなに胸を鷲掴みにされる程痛いのに、
いったいどうやったら この痛みを忘れて自分を取り戻せるんだ?

無理だ!この痛みを抱えたまま立ち上がる事なんて出来ない…
その時ふと、亮はカウンターの隅に目をやった。

そういえばここは、始めてこのみを抱いた夜に来た店だ。
あの夜、俺は震える彼女の手を握り、自分の家へといざなった。
そして彼女の小さな体を抱き上げ、ベットで愛を交わした。
あの時の、手に負えない程の愛おしさは、言葉では言い表せない。



自分が生きてきた証がそこにあると、感じた瞬間だった。
自分はこの女性に会うために生まれて来たのだと……
どうしてあの時、別れを告げられたあの日、あんなにすぐに引いてしまったのだろう。

もっと彼女を揺さぶって別れの理由を聞けばよかった。
それは今からでも遅くないのではないだろうか。
別れの理由?いや、そんなのはもうどうでもいい。
ただ今は、もう一度彼女に会って、あの時の二人の愛の瞬間は本物だったと確認したい。

そう、二人が共有した時間が本物だったのかどうか…自分が聞きたいのはそれだ。
それだけが聞きたい。
亮はカウンターに金を置き、ゆっくりと立ち上がり店を出た。


外は雪だった。
しんしんと降る雪が頬を撫でて行き、彼の頭をますますスッキリさせて行く。
やがて亮は歩き出した。

自分が求めている、ただ一つだけの答えを探しに。
「このみ、もう帰るの?」
「うん。ローリーも終わりでしょ?一緒に帰ろうよ」

「ううん、私はまだよ。後2時間」
「って…最近、働きすぎじゃない?この間も休みなのにシフト入れてたしさ。
絶対に体壊すって。それに最近、顔が青いよ?大丈夫?」
「大丈夫よ。そういうあんたも青いわよ。大丈夫?」
「大丈夫よ」

「このみ…亮さんとはあれから…?」
「なにも。会いにも来ないし、電話もないわ。当たり前よね…」
「そっか…。 聞いていい? あのさ…亮さんにはなんていって別れたの?」

「たぶん、ローリーの想像通りよ。そう、好きな人が出来たって言ったの」
「やっぱり…」
「だってそれしかないしさ…。前の彼からね…結婚を申し込まれたって…
だからそういう事だからって…そう言ったの…」
「うわ…それきっつ…」

「しょうがないよ…」
「で、あのお嬢様はあれから何か言ってきたの?」
「何も…。でも彼女は分かってると思う。きっと彼女は何もかもお見通しよ…」
「そうね…魔女みたいな女だかんね、あの女は…」

「でもね…ちょっと思ったんだ。彼女…麗華さん。彼女ね…亮さんの事…きっと本気なんだと思う…。
彼女もあんな事をしたくてしたんじゃないと思うのよ…」
「はあぁ?」

「だからなんとなく、麗華さんの気持ちも分かるなって…」
「なに寝ぼけた事言ってんの?あんたは女神様かってーの!」

「そんなんじゃないわよ…。でもね…彼女…私にあんな事を言いながら、
とても苦しんでるように見えたの。苦しくて…辛そうだった…」
「まったく!あんたにかかっちゃ、超極悪人も善人ね!」
「ちゃかさないでよ」
「ちゃかしてないわよ、呆れてるの!」

「だってほんとうに そう見えたんだもん…」
「ああ、分かった分かった。もういい、聞きたくない!」
「言っとくけど私は、あのお嬢様は鬼しか見えないわよ。あんたが何を言ってもね!」
「もう…ローリーったら…」

「あんたと喋ってたらイライラする!もう帰ってよ。こっちはまだ仕事なんだから」
「ローリー、そんなに怒るとシワが増えるよ?」
「うるさい、いいから帰んなよ」

「はいはい。ローリーもあんまし無理をしないでよ」
「じゃね、お先に~」
「とっとと けえれ~けえれ~」


(まったく!なんで私はあのトンチンカンと友達なわけ?
あのイラつく性格!物分りのいいフリ!いいこぶりっこ!ああ!ムカつく!)
(あーあ、ローリーを怒らせちゃった。無理もないか…。誰だってそう思うわよね…)

(でもあの時、麗華さんが声を荒げた時にほんとうにそう思ったんだもの…)
彼女もつらいんだろうなって…

そう思ったのよ…
アパート前


(あれ?あれって…隆…君? そうよね…どうみても彼だわ…。どうして彼がここに?)
「隆君?隆君でしょ?」


「やあ、このみちゃん」
「どうしたの?こんな遅くに…」
「ああ、ごめん。ほら、この間、君に借りっぱなしだったCDを返すって言ってただろ?
ちょうどこの近くで用事があってさ…だから…」

「そうなの。わざわざいいのに…」
「全然わざわざじゃないんだ。ほんとについでなんだ…」
「ずっと待ってたの?寒かったでしょ?」
「いや、そうでもないよ…。もう少しで帰ろうと思ってたんだ…もう遅いしね…ほんとにごめん…」

「やーね、謝らないでよ、親切で持ってきてくれたのに(笑)」
「ちょっと入ってお茶でも飲んでいって。このままだと風邪をひくわ」
「でも…こんな夜更けに」

「いいわよ、ちょっとぐらい。あ、でも変な事はなしよ!
ちょっとでも変な事したら大声出しながら顔を引っかいちゃうんだから!分かった?」
「君、ほんと性格変わったね(笑)怖くなったんじゃない?」
「そうよ~~!私ってほんとはすっごく怖い女なんだから!(笑)」
「じゃ僕がガオーっと狼になったら一発でノックアウトだ(笑)」

「そういう事!(笑) 寒いから早く中に入ろう。ほんとに風邪ひいちゃう」
「やっぱやめようかな~怖いし~」

「もう!(笑)」
亮は二人が家に入るまで、身動きできずに立っていた。
二人の会話はほとんど聞こえないが、とても楽しそうだ。


彼はこのみのアパートに30分程前に着いていたのだ。
だがすぐに先客がある事に気がついた。あの男だ。
亮はその男が不審者なのかと思い、声をかけようかと思った。
しかし、それは違うとすぐに思いなおした。

何故なら、どう見ても不審者には見えない身なりをしていたし、
それに…そう、彼はピタリと止まったからだ。このみの部屋の前で。
それを見たとたん、亮は声をかけるのをためらった。嫌な予感がする。
そんな時だった、彼女が帰宅して彼に声をかけたのは。
彼女がその男に声をかけたとたん、予感が的中した事を悟った。

二人は楽しげに会話をしている。笑いながら、じゃれ合うように。
ああ、そうか…きっとあの男は、このみの帰りを今か今かと待っていたのだろう…。
そうだ、だって今夜は週末じゃないか。恋人達のお楽しみの時間だ…。


なるほど、あの男か…彼女が言っていた、前の男と言うのは…
いや、前のではなく、今の男だ。
「はは…前の男は俺の方じゃねーか…」

亮はなんだか笑いたくなった。自分のバカさ加減がうんざりする程面白い。
彼はすぐにタクシーを止めて乗り込み、行き先を告げる。

あのまま、あの二人に割って入って彼女を問いただしたら、
自分の求めている答えが聞けたのだろうかとぼんやりと考える。
窓の外を見ると雪はますますひどくなっているようだ。
あの、別れの日と同じように町を白く染めて行く。

今夜は再出発のカップルが未来を語りあい、
お互いを温め合うには魅力的なシチュエーションだろう。
今宵、二人は身を寄せ合い、
幻想的な空間の中で、ドラマチックな夜を過ごすに違いない…

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コソコソ…

朝からローリーを訪ねて来たはずなのに、なんでか沙織、鈴之介と朝食を召しあがったゴルゴ。はっきり言って飯なんか食った気がしない。
沙織は変な事を言い出すし、鈴之介は面白過ぎる。それに彼女とはもう、ケリがついたはずだ。さっき彼女が自分自身でそう言ったじゃないか。だろ?

それなのに沙織は何故、またデートしようなどと言いだしたのか…。
「ちくしょう~…どうも調子が狂うな…」

「って言うか、朝っぱらから鈴之介で遊んでる場合じゃねーべ?
そもそも俺はローリーに会いに来たんだっつーの!あいつ…いるかな…」
と、ゴルゴは再びローリーを とっ捕まえようと、決意を新たに背筋を伸ばした。
「よ~し…今度こそビシっと決めるぞ。うだうだ悩んでても しゃ~ね~し…」

「そうだ、俺は決める時には決める、そう言う男だろ?今度こぞあいつに向かってズバリとだな…お、俺は お前がす……す……すき…」
「やき…」

「ちゃうちゃう。だからそうじゃねーって言ってるべ?何度言ったら分かるんだ!俺!
だからつまりその…俺はだな…俺は お前が…すすすすす……」
「好き…


「ゴルゴさん、何してるんですか?」
「わ!びくった~~」
「どうしたんですか?こんな雪の日に?」

「こ、このみちゃん……お、おっは~…」
「いえ、もうお昼ですけど?」
「え?昼?いつの間にそんなに時間が…」
「しかもゴルゴさん…こんな雪の日に、ずいぶんと元気ハツラツな服装を…
寒くないんですか?」

「さ、寒いっちゃ~寒いけど…」
「や、あのさ…その…ちょいと近所をジョギングしてたらさ、
た、たまたまこの近くを通りかかってだな…」

「ローリーでしょ?」
「はい?」
「ゴルゴさんたら(笑)ローリーに会いに来たんですね?」
「う…うん…まあ…その…」

「クスクスクス…隠さなくてもいいのに(笑)」
「べ、別に隠してる訳じゃ…」
「でも残念。ローリーはいないの。朝から買い物に行くって出かけて行ったのよ」
「買い物…。そか…それならいいんだ…うん…」

「後で電話してみれば?」
「それがあいつ…電話に出ないんだよな…」
「電話に?」
「うん。ずっと電話してんだけどさ。このみちゃん、なんか聞いてない?」

「ううん…なんにも聞いてないけど……でも…」
「このみ…。私ね、やっぱりゴルゴには何も言わない事にした」
「言わないって…どうして?」

「このみと一緒よ…。私にも色々と事情があるの…」
「事情って…」
「もうヤメ。その話は落ち着いたらちゃんとするから。ね?」
「でも…」

「でもはなし。それよりこのみはどうしたの?
何が用事があって来たんじゃないの?まさか雪だるまでも一緒に作ろうってか?」
「なに?なんか聞いてる?」
「う、ううん、何も聞いてないよ…」

「そか…。まあ…いねーんならしゃ~ねーな。今日は帰るよ…」
「うん…」
「あ、そう言えば! このみちゃん、引越しの準備は終わった?」
「え…」

「引越しだよ。このみちゃんも俺らと一緒にサンセットバレーに行くんだろ?
俺、嬉しくてさ。このみちゃんと一緒なら向こうでの生活も楽しみだよ」
「あ、ああ…」
「俺なんてたいして荷物もねーから荷造りなんて1時間もかかんねーで終わっちまってさ。あ、そだ。でかい物とかさ、動かしたりするの大変だろ?俺が手伝ってやるよ」
「ゴルゴさん…」

「なんなら今日でもいいぜ。どうせ暇になっちまったし」
「ゴルゴさん…あのね…」
「ついでに亮も呼ぼうか。んでうまいもんでもおごってもらって~」
「ゴルゴさん!」

「あ?」
「あの…ごめんね…私…その…サンセットバレーには行けなくなったの…」
「行けないって…え、なんで?」

「なんでって その………かれたから…」
「はい?」
「私ね…亮さんと別れたのよ。だから一緒には行けないの」
「別れた?え?誰と誰が?」

「だから私と亮さん…」
「私と亮さんが わか…? ホワイ?」
「ちょ…なに?俺をからかってる?」
「ううん…からかってなんかいないよ。ほんとよ…私と亮さん、別れたの」

「ま、またまた~~ちょっとケンカでもしただけだろ?そんなのすぐに仲直り…」
「ううん!もうダメなの」
「このみちゃん…」

「私が悪いの…だから…」
「マジかよ…」
「ごめんね…」
「いや…俺に謝られても…。でも、なんで?なんかあったのか?」

「だから私が…うん…私が悪いの。亮さんに非は全然ないわ…」
「非はないって……俺が聞いてるのは そう言う事じゃなくって…」
「ごめん、今は説明したくないの。とりあえず今日は帰ってくれる?
私、これからバイトなの…」
「でもさ…」

「ほんとにごめん、でも今は何も聞かないで…」
「だけど………。 いや…そうか…分かったよ、帰るよ…」
「じゃまたね…」

「あ、ああ…また…」
(なんだかまだよく把握してないんだけど…。
えと…だから このみちゃんは とにかくサンセットバレーには帰らない訳で…)

(何故なら二人は離別したから…
離別と言う字は「離」と「別」 つまり二人は…別れ…た…)
(な、なななななな ななんだとーーーーー?姉さん、大事件です!)

(って俺には姉はいねー)
(そう、彼は悪くない)

(いいえ、誰が悪いんでもないわ…)
パタン

(ただ私と彼の運命がスレ違っただけ。それだけよ…)
コンコン

「亮様、お電話が入っております」
カチャ
「失礼します。サンセットバレーのチームの監督からお電話が……」


「亮様…お酒を飲まれているのですか?」
「少しだけな…」


「ですが今朝から何も召し上がっておられないのに体を壊します」
「大丈夫だよ、ほんとに少しだから…」
「それより、悪いんだけど、カイル。
監督には後で俺の方から電話するって伝えておいてくれないか?」
「え、ええ…それは…。かしこまりました…」

「それから俺はこれからちょっと出かけてくるわ」
「これから…ですか?あの…しかし亮様は お酒を飲まれていますし、
それに今夜は雪がひどくなるようですので…」
「行ってくる」

「亮様…?」
カチャ…
「おはようございま~す」


「あれ?ローリー、買い物に行ったんじゃなかったの?
それに今日はシフトに入ってなかったでしょ?なのに何やってんの?」
「このみ、おはよう。買い物に出たのはいいんだけど、なんか気が乗らなくてさ。
どうせ暇だったからシフトに入れてもらったの。ちょうど金欠だしね」

「そうだったんだ。そう言えばさっきゴルゴさんがアパートに訪ねて来てたわよ?」
「ゴルゴが?」
「うん。ローリーに会いに来たみたいだったけど」
「そう…(なんでアイツが?)」

「ローリーが電話に出ないって言ってたよ?」
「ああ…シルヴァーからの電話がウザくて携帯をバックに入れっぱだった。忘れてたわ」
「え?シルヴァーさん、しつこく電話してくるの?」
「う、ううん!そんなんでもないけどさ…でも大丈夫よ、そのうち諦めるでしょ」

「諦めるって…それってローリーとヨリを戻したいって言ってきてるって事?」
「違う 違う。無理やり追い出したから文句の一つも言いたいんでしょ。
それだけよ、気にしないで」
「そうなんだ…。シルヴァーさんも早く自立してくれればいいのにね」
「まーね…」

「でもさ、ローリー。ゴルゴさんの事、ほんとにいいの?
何か事情があるってローリーは言ってたけど、もし たんなる喧嘩なら…」
「ごめん、その話はまだ言いたくない」
「う、うん…そうだよね、分かった…」

「なに?ずいぶんアッサリと引き下がったわね?」
「だってローリーが言いたくないって時は何を言っても無駄だから」
「ほ~あんたも進歩するんだね(笑)」

「でも、ありがとう。あんたにはそのうち、気持ちの整理が出来たらちゃんと言うから」
「それにね、ゴルゴと何かあったって訳じゃないんだ」
「そうなの?私はまたてっきりゴルゴさんと言い合いか何か…」

「ううん、そうじゃないの。私の事情がほんの少し変わったの」
「ほんの少し、思わぬ出来事が起きたから…」
「なんだかよく分かんないけど…でもいつかローリーが話してくれるのを待ってるから」

「いつかか…」
「ううん、きっとすぐだと思うわ。嫌でも話さなきゃならないと思うから…」

そう言いながら、ローリーは お腹に優しく手を置いた。
-数日後-
「おい、亮!亮、いるか!」

「亮!」
「ゴルゴさんでしたか。どうされたのですか?そんなに大きな声を出されて」
「亮はいる?」

「亮様でしたら あいにく出かけておりますが」
「出かけてる?どこへ?」
「さあ、何もおっしゃらず出かけて行きましたので…」

「アイツ最近、電話にも出ないんだよな。
ねえ、マジでいないの?マジでマジでマジでいないの?」
「マジでマジでマジでいません」
「ところでゴルゴさん、亮様の事なんですが、何かあったのでしょうか?
ここ最近、いつもと様子が違うと言いますか、変…と言いますか…」
「何かね…(あったべ?このみちゃんと別れたんだから)」

「食事も召し上がらないで お酒ばかり飲んでいるようですし、
それに夜も寝ておられないようなので…少し心配です…」
「ふ~ん…」
(夜も寝てない…か。 って事はやっぱ…亮の方が振られたのかな…)

(だってこのみちゃんは「私が悪いの…」とかって言ってたけど、
それって女が男を振った後に、一番使われる ありがちなセリフだろ?)
(亮の様子もおかしいって事だし…ぜって~アイツの方が振られたんだな…。
しかも結婚間近でバッサリと。あーあ…亮は ああ見えて案外、弱いからな…)

(特に女に関しては意外とモロいとこあるしよ…
前のリンダって女?あの子の事でも相当引きずってたようだったし…)
はっ!
(まさかアイツ…変な事でも考えてんじゃねーべな?)

(例えば…例えばの話、やぶれかぶれになって「もう生きててもなんの価値もない!
俺なんか…俺なんか~!」とかって湖に身を投げちゃったり?)
(い…いやいや、まさかまさか。アイツに限ってそんな事はねーよな…。
それは大袈裟としても、落ち込んでる事は確かだ…。ここはもう少し様子を見た方かいいかもしんねーな…)

(そうだ…ヘタに追い討ちをかけるような真似して、
もっと追い込んだりなんかしたら、それこそ湖にドボン。はあ…そんでなくてもローリーの事で頭いてーのになんなんだよ~)
「あの…ゴルゴさん…」
「あ?」


「百面相をしてないで その…亮様の事なんですが…」
「ああ、大丈夫だろ。このみちゃんと別れたせいで湖に身を投げるって言っても、
俺の考え過ぎかもしんねーしな……」
「え?別れた?湖に身を投げる?」

「あ?」
「今、別れて湖に身を投げるとおっしゃいましたか? …も、もしや亮様とこのみ様が…?!」
「あ、いや、俺も何がなんだかさっぱりなんだけどよ…
まあこの話は聞かなかった事にして。あんまり俺がベラベラと…なにやってんの?」


「電話です。亮様に」
「ちょ…ちょっと待ってくれよ!亮に電話って、電話して何て言うつもり?」
「もちろん、早まった真似をしないよう、説得するのです」

「説得って…だから それは俺の勝手な妄想であって…」
「それにあの二人は別れてはなりません。
何故なら、あんなに お似合いの お二人はどこを探してもいないからです」
「い、いやいやいやいや、ちょっと待って!
マジでマジでちょっと待ってってば!頼むから~~!」


「ダメです、留守電です」
「お、おどかさないでくれよ~~」

「しかし…どうして亮様とこのみ様が…」
「なあ、ここはさ、知らんふりしてた方がいいと思わね?
あんまし問い詰めて もっと話がこじれると大変だしさ…」

「ですが鉄は早いうちに打てと申しますし。あんまり溝が深まりましても心配です…」
「それもそうだけどよ…」
「とにかく、お二人は絶対に別れてはなりません。さっきも申し上げましたように、
お二人はとてもお似合いなのです。そう、あなたとローリーさんのように」

「え?」
「あなたとローリーさんですよ。あなた達も とてもお似合いですよ」
「ってあの…俺さ、カイルにローリーの事、言ったっけ?」
「この間おっしゃってたじゃありませんか。ほら、食事をしながら私に」

「あ、あれはあくまでも友達の話でだな…って言うか今は俺の話じゃなくて亮の…」
「ですから!いいですか?さっきも申し上げましたが、早いとこ、鉄は熱いうちに打った方がよいと、私は思いますよ」
「だからカイル…あれは…」
「あれはもクソもありません。早いとこローリーさんを とっ捕まえなさい!」

「とっ捕まえるって……カイル…」
「さて、では私はお部屋の掃除をしてまいりますので」

「ちょ…」
「やれやれ…鉄は覚めたら にっちもさっちも行かないのに…」


「ちょっとぉ~~~!」
カラン…


「もう一杯くれ…」
「お客様…少し飲みすぎでは…」
「いや、大丈夫だ。頼むから酒をくれないか…」
「ですが…」

「大丈夫だから…」
「かしこまりました…」
そうだ、確かに飲み過ぎてる。だけど全然酔えないんだ…。
こんなにキツイ酒を何杯もガブ飲みしているのに、酔うどころか頭はスッキリと冴えてやがる。

亮は自分が女に振られて酒に溺れているのを、心のどこかで笑っていた。
これじゃまるで安っぽいメロドラマだ!はたから見たらさぞかし笑えるだろう。
まさか自分がこんな風になるなんて…。俺はこんなに弱い人間だったのか?
何もしたくない、何も考えたくない程に崩れる程、弱い人間だったのか?

リンダの時はどうやって乗り越えた?あの時も俺はこんな風にボロボロになったはずだ…
それでも俺はちゃんと自分を取り戻した。なら、今度もそうすればいい。
だけどこんなに胸を鷲掴みにされる程痛いのに、
いったいどうやったら この痛みを忘れて自分を取り戻せるんだ?

無理だ!この痛みを抱えたまま立ち上がる事なんて出来ない…
その時ふと、亮はカウンターの隅に目をやった。

そういえばここは、始めてこのみを抱いた夜に来た店だ。
あの夜、俺は震える彼女の手を握り、自分の家へといざなった。
そして彼女の小さな体を抱き上げ、ベットで愛を交わした。
あの時の、手に負えない程の愛おしさは、言葉では言い表せない。



自分が生きてきた証がそこにあると、感じた瞬間だった。
自分はこの女性に会うために生まれて来たのだと……
どうしてあの時、別れを告げられたあの日、あんなにすぐに引いてしまったのだろう。

もっと彼女を揺さぶって別れの理由を聞けばよかった。
それは今からでも遅くないのではないだろうか。
別れの理由?いや、そんなのはもうどうでもいい。
ただ今は、もう一度彼女に会って、あの時の二人の愛の瞬間は本物だったと確認したい。

そう、二人が共有した時間が本物だったのかどうか…自分が聞きたいのはそれだ。
それだけが聞きたい。
亮はカウンターに金を置き、ゆっくりと立ち上がり店を出た。


外は雪だった。
しんしんと降る雪が頬を撫でて行き、彼の頭をますますスッキリさせて行く。
やがて亮は歩き出した。

自分が求めている、ただ一つだけの答えを探しに。
「このみ、もう帰るの?」
「うん。ローリーも終わりでしょ?一緒に帰ろうよ」

「ううん、私はまだよ。後2時間」
「って…最近、働きすぎじゃない?この間も休みなのにシフト入れてたしさ。
絶対に体壊すって。それに最近、顔が青いよ?大丈夫?」
「大丈夫よ。そういうあんたも青いわよ。大丈夫?」
「大丈夫よ」

「このみ…亮さんとはあれから…?」
「なにも。会いにも来ないし、電話もないわ。当たり前よね…」
「そっか…。 聞いていい? あのさ…亮さんにはなんていって別れたの?」

「たぶん、ローリーの想像通りよ。そう、好きな人が出来たって言ったの」
「やっぱり…」
「だってそれしかないしさ…。前の彼からね…結婚を申し込まれたって…
だからそういう事だからって…そう言ったの…」
「うわ…それきっつ…」

「しょうがないよ…」
「で、あのお嬢様はあれから何か言ってきたの?」
「何も…。でも彼女は分かってると思う。きっと彼女は何もかもお見通しよ…」
「そうね…魔女みたいな女だかんね、あの女は…」

「でもね…ちょっと思ったんだ。彼女…麗華さん。彼女ね…亮さんの事…きっと本気なんだと思う…。
彼女もあんな事をしたくてしたんじゃないと思うのよ…」
「はあぁ?」

「だからなんとなく、麗華さんの気持ちも分かるなって…」
「なに寝ぼけた事言ってんの?あんたは女神様かってーの!」

「そんなんじゃないわよ…。でもね…彼女…私にあんな事を言いながら、
とても苦しんでるように見えたの。苦しくて…辛そうだった…」
「まったく!あんたにかかっちゃ、超極悪人も善人ね!」
「ちゃかさないでよ」
「ちゃかしてないわよ、呆れてるの!」

「だってほんとうに そう見えたんだもん…」
「ああ、分かった分かった。もういい、聞きたくない!」
「言っとくけど私は、あのお嬢様は鬼しか見えないわよ。あんたが何を言ってもね!」
「もう…ローリーったら…」

「あんたと喋ってたらイライラする!もう帰ってよ。こっちはまだ仕事なんだから」
「ローリー、そんなに怒るとシワが増えるよ?」
「うるさい、いいから帰んなよ」

「はいはい。ローリーもあんまし無理をしないでよ」
「じゃね、お先に~」
「とっとと けえれ~けえれ~」


(まったく!なんで私はあのトンチンカンと友達なわけ?
あのイラつく性格!物分りのいいフリ!いいこぶりっこ!ああ!ムカつく!)
(あーあ、ローリーを怒らせちゃった。無理もないか…。誰だってそう思うわよね…)

(でもあの時、麗華さんが声を荒げた時にほんとうにそう思ったんだもの…)
彼女もつらいんだろうなって…

そう思ったのよ…
アパート前


(あれ?あれって…隆…君? そうよね…どうみても彼だわ…。どうして彼がここに?)
「隆君?隆君でしょ?」


「やあ、このみちゃん」
「どうしたの?こんな遅くに…」
「ああ、ごめん。ほら、この間、君に借りっぱなしだったCDを返すって言ってただろ?
ちょうどこの近くで用事があってさ…だから…」

「そうなの。わざわざいいのに…」
「全然わざわざじゃないんだ。ほんとについでなんだ…」
「ずっと待ってたの?寒かったでしょ?」
「いや、そうでもないよ…。もう少しで帰ろうと思ってたんだ…もう遅いしね…ほんとにごめん…」

「やーね、謝らないでよ、親切で持ってきてくれたのに(笑)」
「ちょっと入ってお茶でも飲んでいって。このままだと風邪をひくわ」
「でも…こんな夜更けに」

「いいわよ、ちょっとぐらい。あ、でも変な事はなしよ!
ちょっとでも変な事したら大声出しながら顔を引っかいちゃうんだから!分かった?」
「君、ほんと性格変わったね(笑)怖くなったんじゃない?」
「そうよ~~!私ってほんとはすっごく怖い女なんだから!(笑)」
「じゃ僕がガオーっと狼になったら一発でノックアウトだ(笑)」

「そういう事!(笑) 寒いから早く中に入ろう。ほんとに風邪ひいちゃう」
「やっぱやめようかな~怖いし~」

「もう!(笑)」
亮は二人が家に入るまで、身動きできずに立っていた。
二人の会話はほとんど聞こえないが、とても楽しそうだ。


彼はこのみのアパートに30分程前に着いていたのだ。
だがすぐに先客がある事に気がついた。あの男だ。
亮はその男が不審者なのかと思い、声をかけようかと思った。
しかし、それは違うとすぐに思いなおした。

何故なら、どう見ても不審者には見えない身なりをしていたし、
それに…そう、彼はピタリと止まったからだ。このみの部屋の前で。
それを見たとたん、亮は声をかけるのをためらった。嫌な予感がする。
そんな時だった、彼女が帰宅して彼に声をかけたのは。
彼女がその男に声をかけたとたん、予感が的中した事を悟った。

二人は楽しげに会話をしている。笑いながら、じゃれ合うように。
ああ、そうか…きっとあの男は、このみの帰りを今か今かと待っていたのだろう…。
そうだ、だって今夜は週末じゃないか。恋人達のお楽しみの時間だ…。


なるほど、あの男か…彼女が言っていた、前の男と言うのは…
いや、前のではなく、今の男だ。
「はは…前の男は俺の方じゃねーか…」

亮はなんだか笑いたくなった。自分のバカさ加減がうんざりする程面白い。
彼はすぐにタクシーを止めて乗り込み、行き先を告げる。

あのまま、あの二人に割って入って彼女を問いただしたら、
自分の求めている答えが聞けたのだろうかとぼんやりと考える。
窓の外を見ると雪はますますひどくなっているようだ。
あの、別れの日と同じように町を白く染めて行く。

今夜は再出発のカップルが未来を語りあい、
お互いを温め合うには魅力的なシチュエーションだろう。
今宵、二人は身を寄せ合い、
幻想的な空間の中で、ドラマチックな夜を過ごすに違いない…

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