第46話 「通り過ぎる過去」
*二度目の恋 君に逢いたくて…第46話
コソコソ…

朝からローリーを訪ねて来たはずなのに、なんでか沙織、鈴之介と朝食を召しあがったゴルゴ。はっきり言って飯なんか食った気がしない。
沙織は変な事を言い出すし、鈴之介は面白過ぎる。それに彼女とはもう、ケリがついたはずだ。さっき彼女が自分自身でそう言ったじゃないか。だろ?

それなのに沙織は何故、またデートしようなどと言いだしたのか…。
「ちくしょう~…どうも調子が狂うな…」

「って言うか、朝っぱらから鈴之介で遊んでる場合じゃねーべ?
そもそも俺はローリーに会いに来たんだっつーの!あいつ…いるかな…」
と、ゴルゴは再びローリーを とっ捕まえようと、決意を新たに背筋を伸ばした。
「よ~し…今度こそビシっと決めるぞ。うだうだ悩んでても しゃ~ね~し…」

「そうだ、俺は決める時には決める、そう言う男だろ?今度こぞあいつに向かってズバリとだな…お、俺は お前がす……す……すき…」
「やき…」

「ちゃうちゃう。だからそうじゃねーって言ってるべ?何度言ったら分かるんだ!俺!
だからつまりその…俺はだな…俺は お前が…すすすすす……」
「好き…
…」

「ゴルゴさん、何してるんですか?」
「わ!びくった~~」
「どうしたんですか?こんな雪の日に?」

「こ、このみちゃん……お、おっは~…」
「いえ、もうお昼ですけど?」
「え?昼?いつの間にそんなに時間が…」
「しかもゴルゴさん…こんな雪の日に、ずいぶんと元気ハツラツな服装を…
寒くないんですか?」

「さ、寒いっちゃ~寒いけど…」
「や、あのさ…その…ちょいと近所をジョギングしてたらさ、
た、たまたまこの近くを通りかかってだな…」

「ローリーでしょ?」
「はい?」
「ゴルゴさんたら(笑)ローリーに会いに来たんですね?」
「う…うん…まあ…その…」

「クスクスクス…隠さなくてもいいのに(笑)」
「べ、別に隠してる訳じゃ…」
「でも残念。ローリーはいないの。朝から買い物に行くって出かけて行ったのよ」
「買い物…。そか…それならいいんだ…うん…」

「後で電話してみれば?」
「それがあいつ…電話に出ないんだよな…」
「電話に?」
「うん。ずっと電話してんだけどさ。このみちゃん、なんか聞いてない?」

「ううん…なんにも聞いてないけど……でも…」
「このみ…。私ね、やっぱりゴルゴには何も言わない事にした」
「言わないって…どうして?」

「このみと一緒よ…。私にも色々と事情があるの…」
「事情って…」
「もうヤメ。その話は落ち着いたらちゃんとするから。ね?」
「でも…」

「でもはなし。それよりこのみはどうしたの?
何が用事があって来たんじゃないの?まさか雪だるまでも一緒に作ろうってか?」
「なに?なんか聞いてる?」
「う、ううん、何も聞いてないよ…」

「そか…。まあ…いねーんならしゃ~ねーな。今日は帰るよ…」
「うん…」
「あ、そう言えば! このみちゃん、引越しの準備は終わった?」
「え…」

「引越しだよ。このみちゃんも俺らと一緒にサンセットバレーに行くんだろ?
俺、嬉しくてさ。このみちゃんと一緒なら向こうでの生活も楽しみだよ」
「あ、ああ…」
「俺なんてたいして荷物もねーから荷造りなんて1時間もかかんねーで終わっちまってさ。あ、そだ。でかい物とかさ、動かしたりするの大変だろ?俺が手伝ってやるよ」
「ゴルゴさん…」

「なんなら今日でもいいぜ。どうせ暇になっちまったし」
「ゴルゴさん…あのね…」
「ついでに亮も呼ぼうか。んでうまいもんでもおごってもらって~」
「ゴルゴさん!」

「あ?」
「あの…ごめんね…私…その…サンセットバレーには行けなくなったの…」
「行けないって…え、なんで?」

「なんでって その………かれたから…」
「はい?」
「私ね…亮さんと別れたのよ。だから一緒には行けないの」
「別れた?え?誰と誰が?」

「だから私と亮さん…」
「私と亮さんが わか…? ホワイ?」
「ちょ…なに?俺をからかってる?」
「ううん…からかってなんかいないよ。ほんとよ…私と亮さん、別れたの」

「ま、またまた~~ちょっとケンカでもしただけだろ?そんなのすぐに仲直り…」
「ううん!もうダメなの」
「このみちゃん…」

「私が悪いの…だから…」
「マジかよ…」
「ごめんね…」
「いや…俺に謝られても…。でも、なんで?なんかあったのか?」

「だから私が…うん…私が悪いの。亮さんに非は全然ないわ…」
「非はないって……俺が聞いてるのは そう言う事じゃなくって…」
「ごめん、今は説明したくないの。とりあえず今日は帰ってくれる?
私、これからバイトなの…」
「でもさ…」

「ほんとにごめん、でも今は何も聞かないで…」
「だけど………。 いや…そうか…分かったよ、帰るよ…」
「じゃまたね…」

「あ、ああ…また…」
(なんだかまだよく把握してないんだけど…。
えと…だから このみちゃんは とにかくサンセットバレーには帰らない訳で…)

(何故なら二人は離別したから…
離別と言う字は「離」と「別」 つまり二人は…別れ…た…)
(な、なななななな ななんだとーーーーー?姉さん、大事件です!)

(って俺には姉はいねー)
(そう、彼は悪くない)

(いいえ、誰が悪いんでもないわ…)
パタン

(ただ私と彼の運命がスレ違っただけ。それだけよ…)
コンコン

「亮様、お電話が入っております」
カチャ
「失礼します。サンセットバレーのチームの監督からお電話が……」


「亮様…お酒を飲まれているのですか?」
「少しだけな…」


「ですが今朝から何も召し上がっておられないのに体を壊します」
「大丈夫だよ、ほんとに少しだから…」
「それより、悪いんだけど、カイル。
監督には後で俺の方から電話するって伝えておいてくれないか?」
「え、ええ…それは…。かしこまりました…」

「それから俺はこれからちょっと出かけてくるわ」
「これから…ですか?あの…しかし亮様は お酒を飲まれていますし、
それに今夜は雪がひどくなるようですので…」
「行ってくる」

「亮様…?」
カチャ…
「おはようございま~す」


「あれ?ローリー、買い物に行ったんじゃなかったの?
それに今日はシフトに入ってなかったでしょ?なのに何やってんの?」
「このみ、おはよう。買い物に出たのはいいんだけど、なんか気が乗らなくてさ。
どうせ暇だったからシフトに入れてもらったの。ちょうど金欠だしね」

「そうだったんだ。そう言えばさっきゴルゴさんがアパートに訪ねて来てたわよ?」
「ゴルゴが?」
「うん。ローリーに会いに来たみたいだったけど」
「そう…(なんでアイツが?)」

「ローリーが電話に出ないって言ってたよ?」
「ああ…シルヴァーからの電話がウザくて携帯をバックに入れっぱだった。忘れてたわ」
「え?シルヴァーさん、しつこく電話してくるの?」
「う、ううん!そんなんでもないけどさ…でも大丈夫よ、そのうち諦めるでしょ」

「諦めるって…それってローリーとヨリを戻したいって言ってきてるって事?」
「違う 違う。無理やり追い出したから文句の一つも言いたいんでしょ。
それだけよ、気にしないで」
「そうなんだ…。シルヴァーさんも早く自立してくれればいいのにね」
「まーね…」

「でもさ、ローリー。ゴルゴさんの事、ほんとにいいの?
何か事情があるってローリーは言ってたけど、もし たんなる喧嘩なら…」
「ごめん、その話はまだ言いたくない」
「う、うん…そうだよね、分かった…」

「なに?ずいぶんアッサリと引き下がったわね?」
「だってローリーが言いたくないって時は何を言っても無駄だから」
「ほ~あんたも進歩するんだね(笑)」

「でも、ありがとう。あんたにはそのうち、気持ちの整理が出来たらちゃんと言うから」
「それにね、ゴルゴと何かあったって訳じゃないんだ」
「そうなの?私はまたてっきりゴルゴさんと言い合いか何か…」

「ううん、そうじゃないの。私の事情がほんの少し変わったの」
「ほんの少し、思わぬ出来事が起きたから…」
「なんだかよく分かんないけど…でもいつかローリーが話してくれるのを待ってるから」

「いつかか…」
「ううん、きっとすぐだと思うわ。嫌でも話さなきゃならないと思うから…」

そう言いながら、ローリーは お腹に優しく手を置いた。
-数日後-
「おい、亮!亮、いるか!」

「亮!」
「ゴルゴさんでしたか。どうされたのですか?そんなに大きな声を出されて」
「亮はいる?」

「亮様でしたら あいにく出かけておりますが」
「出かけてる?どこへ?」
「さあ、何もおっしゃらず出かけて行きましたので…」

「アイツ最近、電話にも出ないんだよな。
ねえ、マジでいないの?マジでマジでマジでいないの?」
「マジでマジでマジでいません」
「ところでゴルゴさん、亮様の事なんですが、何かあったのでしょうか?
ここ最近、いつもと様子が違うと言いますか、変…と言いますか…」
「何かね…(あったべ?このみちゃんと別れたんだから)」

「食事も召し上がらないで お酒ばかり飲んでいるようですし、
それに夜も寝ておられないようなので…少し心配です…」
「ふ~ん…」
(夜も寝てない…か。 って事はやっぱ…亮の方が振られたのかな…)

(だってこのみちゃんは「私が悪いの…」とかって言ってたけど、
それって女が男を振った後に、一番使われる ありがちなセリフだろ?)
(亮の様子もおかしいって事だし…ぜって~アイツの方が振られたんだな…。
しかも結婚間近でバッサリと。あーあ…亮は ああ見えて案外、弱いからな…)

(特に女に関しては意外とモロいとこあるしよ…
前のリンダって女?あの子の事でも相当引きずってたようだったし…)
はっ!
(まさかアイツ…変な事でも考えてんじゃねーべな?)

(例えば…例えばの話、やぶれかぶれになって「もう生きててもなんの価値もない!
俺なんか…俺なんか~!」とかって湖に身を投げちゃったり?)
(い…いやいや、まさかまさか。アイツに限ってそんな事はねーよな…。
それは大袈裟としても、落ち込んでる事は確かだ…。ここはもう少し様子を見た方かいいかもしんねーな…)

(そうだ…ヘタに追い討ちをかけるような真似して、
もっと追い込んだりなんかしたら、それこそ湖にドボン。はあ…そんでなくてもローリーの事で頭いてーのになんなんだよ~)
「あの…ゴルゴさん…」
「あ?」


「百面相をしてないで その…亮様の事なんですが…」
「ああ、大丈夫だろ。このみちゃんと別れたせいで湖に身を投げるって言っても、
俺の考え過ぎかもしんねーしな……」
「え?別れた?湖に身を投げる?」

「あ?」
「今、別れて湖に身を投げるとおっしゃいましたか? …も、もしや亮様とこのみ様が…?!」
「あ、いや、俺も何がなんだかさっぱりなんだけどよ…
まあこの話は聞かなかった事にして。あんまり俺がベラベラと…なにやってんの?」


「電話です。亮様に」
「ちょ…ちょっと待ってくれよ!亮に電話って、電話して何て言うつもり?」
「もちろん、早まった真似をしないよう、説得するのです」

「説得って…だから それは俺の勝手な妄想であって…」
「それにあの二人は別れてはなりません。
何故なら、あんなに お似合いの お二人はどこを探してもいないからです」
「い、いやいやいやいや、ちょっと待って!
マジでマジでちょっと待ってってば!頼むから~~!」


「ダメです、留守電です」
「お、おどかさないでくれよ~~」

「しかし…どうして亮様とこのみ様が…」
「なあ、ここはさ、知らんふりしてた方がいいと思わね?
あんまし問い詰めて もっと話がこじれると大変だしさ…」

「ですが鉄は早いうちに打てと申しますし。あんまり溝が深まりましても心配です…」
「それもそうだけどよ…」
「とにかく、お二人は絶対に別れてはなりません。さっきも申し上げましたように、
お二人はとてもお似合いなのです。そう、あなたとローリーさんのように」

「え?」
「あなたとローリーさんですよ。あなた達も とてもお似合いですよ」
「ってあの…俺さ、カイルにローリーの事、言ったっけ?」
「この間おっしゃってたじゃありませんか。ほら、食事をしながら私に」

「あ、あれはあくまでも友達の話でだな…って言うか今は俺の話じゃなくて亮の…」
「ですから!いいですか?さっきも申し上げましたが、早いとこ、鉄は熱いうちに打った方がよいと、私は思いますよ」
「だからカイル…あれは…」
「あれはもクソもありません。早いとこローリーさんを とっ捕まえなさい!」

「とっ捕まえるって……カイル…」
「さて、では私はお部屋の掃除をしてまいりますので」

「ちょ…」
「やれやれ…鉄は覚めたら にっちもさっちも行かないのに…」


「ちょっとぉ~~~!」
カラン…


「もう一杯くれ…」
「お客様…少し飲みすぎでは…」
「いや、大丈夫だ。頼むから酒をくれないか…」
「ですが…」

「大丈夫だから…」
「かしこまりました…」
そうだ、確かに飲み過ぎてる。だけど全然酔えないんだ…。
こんなにキツイ酒を何杯もガブ飲みしているのに、酔うどころか頭はスッキリと冴えてやがる。

亮は自分が女に振られて酒に溺れているのを、心のどこかで笑っていた。
これじゃまるで安っぽいメロドラマだ!はたから見たらさぞかし笑えるだろう。
まさか自分がこんな風になるなんて…。俺はこんなに弱い人間だったのか?
何もしたくない、何も考えたくない程に崩れる程、弱い人間だったのか?

リンダの時はどうやって乗り越えた?あの時も俺はこんな風にボロボロになったはずだ…
それでも俺はちゃんと自分を取り戻した。なら、今度もそうすればいい。
だけどこんなに胸を鷲掴みにされる程痛いのに、
いったいどうやったら この痛みを忘れて自分を取り戻せるんだ?

無理だ!この痛みを抱えたまま立ち上がる事なんて出来ない…
その時ふと、亮はカウンターの隅に目をやった。

そういえばここは、始めてこのみを抱いた夜に来た店だ。
あの夜、俺は震える彼女の手を握り、自分の家へといざなった。
そして彼女の小さな体を抱き上げ、ベットで愛を交わした。
あの時の、手に負えない程の愛おしさは、言葉では言い表せない。



自分が生きてきた証がそこにあると、感じた瞬間だった。
自分はこの女性に会うために生まれて来たのだと……
どうしてあの時、別れを告げられたあの日、あんなにすぐに引いてしまったのだろう。

もっと彼女を揺さぶって別れの理由を聞けばよかった。
それは今からでも遅くないのではないだろうか。
別れの理由?いや、そんなのはもうどうでもいい。
ただ今は、もう一度彼女に会って、あの時の二人の愛の瞬間は本物だったと確認したい。

そう、二人が共有した時間が本物だったのかどうか…自分が聞きたいのはそれだ。
それだけが聞きたい。
亮はカウンターに金を置き、ゆっくりと立ち上がり店を出た。


外は雪だった。
しんしんと降る雪が頬を撫でて行き、彼の頭をますますスッキリさせて行く。
やがて亮は歩き出した。

自分が求めている、ただ一つだけの答えを探しに。
「このみ、もう帰るの?」
「うん。ローリーも終わりでしょ?一緒に帰ろうよ」

「ううん、私はまだよ。後2時間」
「って…最近、働きすぎじゃない?この間も休みなのにシフト入れてたしさ。
絶対に体壊すって。それに最近、顔が青いよ?大丈夫?」
「大丈夫よ。そういうあんたも青いわよ。大丈夫?」
「大丈夫よ」

「このみ…亮さんとはあれから…?」
「なにも。会いにも来ないし、電話もないわ。当たり前よね…」
「そっか…。 聞いていい? あのさ…亮さんにはなんていって別れたの?」

「たぶん、ローリーの想像通りよ。そう、好きな人が出来たって言ったの」
「やっぱり…」
「だってそれしかないしさ…。前の彼からね…結婚を申し込まれたって…
だからそういう事だからって…そう言ったの…」
「うわ…それきっつ…」

「しょうがないよ…」
「で、あのお嬢様はあれから何か言ってきたの?」
「何も…。でも彼女は分かってると思う。きっと彼女は何もかもお見通しよ…」
「そうね…魔女みたいな女だかんね、あの女は…」

「でもね…ちょっと思ったんだ。彼女…麗華さん。彼女ね…亮さんの事…きっと本気なんだと思う…。
彼女もあんな事をしたくてしたんじゃないと思うのよ…」
「はあぁ?」

「だからなんとなく、麗華さんの気持ちも分かるなって…」
「なに寝ぼけた事言ってんの?あんたは女神様かってーの!」

「そんなんじゃないわよ…。でもね…彼女…私にあんな事を言いながら、
とても苦しんでるように見えたの。苦しくて…辛そうだった…」
「まったく!あんたにかかっちゃ、超極悪人も善人ね!」
「ちゃかさないでよ」
「ちゃかしてないわよ、呆れてるの!」

「だってほんとうに そう見えたんだもん…」
「ああ、分かった分かった。もういい、聞きたくない!」
「言っとくけど私は、あのお嬢様は鬼しか見えないわよ。あんたが何を言ってもね!」
「もう…ローリーったら…」

「あんたと喋ってたらイライラする!もう帰ってよ。こっちはまだ仕事なんだから」
「ローリー、そんなに怒るとシワが増えるよ?」
「うるさい、いいから帰んなよ」

「はいはい。ローリーもあんまし無理をしないでよ」
「じゃね、お先に~」
「とっとと けえれ~けえれ~」


(まったく!なんで私はあのトンチンカンと友達なわけ?
あのイラつく性格!物分りのいいフリ!いいこぶりっこ!ああ!ムカつく!)
(あーあ、ローリーを怒らせちゃった。無理もないか…。誰だってそう思うわよね…)

(でもあの時、麗華さんが声を荒げた時にほんとうにそう思ったんだもの…)
彼女もつらいんだろうなって…

そう思ったのよ…
アパート前


(あれ?あれって…隆…君? そうよね…どうみても彼だわ…。どうして彼がここに?)
「隆君?隆君でしょ?」


「やあ、このみちゃん」
「どうしたの?こんな遅くに…」
「ああ、ごめん。ほら、この間、君に借りっぱなしだったCDを返すって言ってただろ?
ちょうどこの近くで用事があってさ…だから…」

「そうなの。わざわざいいのに…」
「全然わざわざじゃないんだ。ほんとについでなんだ…」
「ずっと待ってたの?寒かったでしょ?」
「いや、そうでもないよ…。もう少しで帰ろうと思ってたんだ…もう遅いしね…ほんとにごめん…」

「やーね、謝らないでよ、親切で持ってきてくれたのに(笑)」
「ちょっと入ってお茶でも飲んでいって。このままだと風邪をひくわ」
「でも…こんな夜更けに」

「いいわよ、ちょっとぐらい。あ、でも変な事はなしよ!
ちょっとでも変な事したら大声出しながら顔を引っかいちゃうんだから!分かった?」
「君、ほんと性格変わったね(笑)怖くなったんじゃない?」
「そうよ~~!私ってほんとはすっごく怖い女なんだから!(笑)」
「じゃ僕がガオーっと狼になったら一発でノックアウトだ(笑)」

「そういう事!(笑) 寒いから早く中に入ろう。ほんとに風邪ひいちゃう」
「やっぱやめようかな~怖いし~」

「もう!(笑)」
亮は二人が家に入るまで、身動きできずに立っていた。
二人の会話はほとんど聞こえないが、とても楽しそうだ。


彼はこのみのアパートに30分程前に着いていたのだ。
だがすぐに先客がある事に気がついた。あの男だ。
亮はその男が不審者なのかと思い、声をかけようかと思った。
しかし、それは違うとすぐに思いなおした。

何故なら、どう見ても不審者には見えない身なりをしていたし、
それに…そう、彼はピタリと止まったからだ。このみの部屋の前で。
それを見たとたん、亮は声をかけるのをためらった。嫌な予感がする。
そんな時だった、彼女が帰宅して彼に声をかけたのは。
彼女がその男に声をかけたとたん、予感が的中した事を悟った。

二人は楽しげに会話をしている。笑いながら、じゃれ合うように。
ああ、そうか…きっとあの男は、このみの帰りを今か今かと待っていたのだろう…。
そうだ、だって今夜は週末じゃないか。恋人達のお楽しみの時間だ…。


なるほど、あの男か…彼女が言っていた、前の男と言うのは…
いや、前のではなく、今の男だ。
「はは…前の男は俺の方じゃねーか…」

亮はなんだか笑いたくなった。自分のバカさ加減がうんざりする程面白い。
彼はすぐにタクシーを止めて乗り込み、行き先を告げる。

あのまま、あの二人に割って入って彼女を問いただしたら、
自分の求めている答えが聞けたのだろうかとぼんやりと考える。
窓の外を見ると雪はますますひどくなっているようだ。
あの、別れの日と同じように町を白く染めて行く。

今夜は再出発のカップルが未来を語りあい、
お互いを温め合うには魅力的なシチュエーションだろう。
今宵、二人は身を寄せ合い、
幻想的な空間の中で、ドラマチックな夜を過ごすに違いない…

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コソコソ…

朝からローリーを訪ねて来たはずなのに、なんでか沙織、鈴之介と朝食を召しあがったゴルゴ。はっきり言って飯なんか食った気がしない。
沙織は変な事を言い出すし、鈴之介は面白過ぎる。それに彼女とはもう、ケリがついたはずだ。さっき彼女が自分自身でそう言ったじゃないか。だろ?

それなのに沙織は何故、またデートしようなどと言いだしたのか…。
「ちくしょう~…どうも調子が狂うな…」

「って言うか、朝っぱらから鈴之介で遊んでる場合じゃねーべ?
そもそも俺はローリーに会いに来たんだっつーの!あいつ…いるかな…」
と、ゴルゴは再びローリーを とっ捕まえようと、決意を新たに背筋を伸ばした。
「よ~し…今度こそビシっと決めるぞ。うだうだ悩んでても しゃ~ね~し…」

「そうだ、俺は決める時には決める、そう言う男だろ?今度こぞあいつに向かってズバリとだな…お、俺は お前がす……す……すき…」
「やき…」

「ちゃうちゃう。だからそうじゃねーって言ってるべ?何度言ったら分かるんだ!俺!
だからつまりその…俺はだな…俺は お前が…すすすすす……」
「好き…


「ゴルゴさん、何してるんですか?」
「わ!びくった~~」
「どうしたんですか?こんな雪の日に?」

「こ、このみちゃん……お、おっは~…」
「いえ、もうお昼ですけど?」
「え?昼?いつの間にそんなに時間が…」
「しかもゴルゴさん…こんな雪の日に、ずいぶんと元気ハツラツな服装を…
寒くないんですか?」

「さ、寒いっちゃ~寒いけど…」
「や、あのさ…その…ちょいと近所をジョギングしてたらさ、
た、たまたまこの近くを通りかかってだな…」

「ローリーでしょ?」
「はい?」
「ゴルゴさんたら(笑)ローリーに会いに来たんですね?」
「う…うん…まあ…その…」

「クスクスクス…隠さなくてもいいのに(笑)」
「べ、別に隠してる訳じゃ…」
「でも残念。ローリーはいないの。朝から買い物に行くって出かけて行ったのよ」
「買い物…。そか…それならいいんだ…うん…」

「後で電話してみれば?」
「それがあいつ…電話に出ないんだよな…」
「電話に?」
「うん。ずっと電話してんだけどさ。このみちゃん、なんか聞いてない?」

「ううん…なんにも聞いてないけど……でも…」
「このみ…。私ね、やっぱりゴルゴには何も言わない事にした」
「言わないって…どうして?」

「このみと一緒よ…。私にも色々と事情があるの…」
「事情って…」
「もうヤメ。その話は落ち着いたらちゃんとするから。ね?」
「でも…」

「でもはなし。それよりこのみはどうしたの?
何が用事があって来たんじゃないの?まさか雪だるまでも一緒に作ろうってか?」
「なに?なんか聞いてる?」
「う、ううん、何も聞いてないよ…」

「そか…。まあ…いねーんならしゃ~ねーな。今日は帰るよ…」
「うん…」
「あ、そう言えば! このみちゃん、引越しの準備は終わった?」
「え…」

「引越しだよ。このみちゃんも俺らと一緒にサンセットバレーに行くんだろ?
俺、嬉しくてさ。このみちゃんと一緒なら向こうでの生活も楽しみだよ」
「あ、ああ…」
「俺なんてたいして荷物もねーから荷造りなんて1時間もかかんねーで終わっちまってさ。あ、そだ。でかい物とかさ、動かしたりするの大変だろ?俺が手伝ってやるよ」
「ゴルゴさん…」

「なんなら今日でもいいぜ。どうせ暇になっちまったし」
「ゴルゴさん…あのね…」
「ついでに亮も呼ぼうか。んでうまいもんでもおごってもらって~」
「ゴルゴさん!」

「あ?」
「あの…ごめんね…私…その…サンセットバレーには行けなくなったの…」
「行けないって…え、なんで?」

「なんでって その………かれたから…」
「はい?」
「私ね…亮さんと別れたのよ。だから一緒には行けないの」
「別れた?え?誰と誰が?」

「だから私と亮さん…」
「私と亮さんが わか…? ホワイ?」
「ちょ…なに?俺をからかってる?」
「ううん…からかってなんかいないよ。ほんとよ…私と亮さん、別れたの」

「ま、またまた~~ちょっとケンカでもしただけだろ?そんなのすぐに仲直り…」
「ううん!もうダメなの」
「このみちゃん…」

「私が悪いの…だから…」
「マジかよ…」
「ごめんね…」
「いや…俺に謝られても…。でも、なんで?なんかあったのか?」

「だから私が…うん…私が悪いの。亮さんに非は全然ないわ…」
「非はないって……俺が聞いてるのは そう言う事じゃなくって…」
「ごめん、今は説明したくないの。とりあえず今日は帰ってくれる?
私、これからバイトなの…」
「でもさ…」

「ほんとにごめん、でも今は何も聞かないで…」
「だけど………。 いや…そうか…分かったよ、帰るよ…」
「じゃまたね…」

「あ、ああ…また…」
(なんだかまだよく把握してないんだけど…。
えと…だから このみちゃんは とにかくサンセットバレーには帰らない訳で…)

(何故なら二人は離別したから…
離別と言う字は「離」と「別」 つまり二人は…別れ…た…)
(な、なななななな ななんだとーーーーー?姉さん、大事件です!)

(って俺には姉はいねー)
(そう、彼は悪くない)

(いいえ、誰が悪いんでもないわ…)
パタン

(ただ私と彼の運命がスレ違っただけ。それだけよ…)
コンコン

「亮様、お電話が入っております」
カチャ
「失礼します。サンセットバレーのチームの監督からお電話が……」


「亮様…お酒を飲まれているのですか?」
「少しだけな…」


「ですが今朝から何も召し上がっておられないのに体を壊します」
「大丈夫だよ、ほんとに少しだから…」
「それより、悪いんだけど、カイル。
監督には後で俺の方から電話するって伝えておいてくれないか?」
「え、ええ…それは…。かしこまりました…」

「それから俺はこれからちょっと出かけてくるわ」
「これから…ですか?あの…しかし亮様は お酒を飲まれていますし、
それに今夜は雪がひどくなるようですので…」
「行ってくる」

「亮様…?」
カチャ…
「おはようございま~す」


「あれ?ローリー、買い物に行ったんじゃなかったの?
それに今日はシフトに入ってなかったでしょ?なのに何やってんの?」
「このみ、おはよう。買い物に出たのはいいんだけど、なんか気が乗らなくてさ。
どうせ暇だったからシフトに入れてもらったの。ちょうど金欠だしね」

「そうだったんだ。そう言えばさっきゴルゴさんがアパートに訪ねて来てたわよ?」
「ゴルゴが?」
「うん。ローリーに会いに来たみたいだったけど」
「そう…(なんでアイツが?)」

「ローリーが電話に出ないって言ってたよ?」
「ああ…シルヴァーからの電話がウザくて携帯をバックに入れっぱだった。忘れてたわ」
「え?シルヴァーさん、しつこく電話してくるの?」
「う、ううん!そんなんでもないけどさ…でも大丈夫よ、そのうち諦めるでしょ」

「諦めるって…それってローリーとヨリを戻したいって言ってきてるって事?」
「違う 違う。無理やり追い出したから文句の一つも言いたいんでしょ。
それだけよ、気にしないで」
「そうなんだ…。シルヴァーさんも早く自立してくれればいいのにね」
「まーね…」

「でもさ、ローリー。ゴルゴさんの事、ほんとにいいの?
何か事情があるってローリーは言ってたけど、もし たんなる喧嘩なら…」
「ごめん、その話はまだ言いたくない」
「う、うん…そうだよね、分かった…」

「なに?ずいぶんアッサリと引き下がったわね?」
「だってローリーが言いたくないって時は何を言っても無駄だから」
「ほ~あんたも進歩するんだね(笑)」

「でも、ありがとう。あんたにはそのうち、気持ちの整理が出来たらちゃんと言うから」
「それにね、ゴルゴと何かあったって訳じゃないんだ」
「そうなの?私はまたてっきりゴルゴさんと言い合いか何か…」

「ううん、そうじゃないの。私の事情がほんの少し変わったの」
「ほんの少し、思わぬ出来事が起きたから…」
「なんだかよく分かんないけど…でもいつかローリーが話してくれるのを待ってるから」

「いつかか…」
「ううん、きっとすぐだと思うわ。嫌でも話さなきゃならないと思うから…」

そう言いながら、ローリーは お腹に優しく手を置いた。
-数日後-
「おい、亮!亮、いるか!」

「亮!」
「ゴルゴさんでしたか。どうされたのですか?そんなに大きな声を出されて」
「亮はいる?」

「亮様でしたら あいにく出かけておりますが」
「出かけてる?どこへ?」
「さあ、何もおっしゃらず出かけて行きましたので…」

「アイツ最近、電話にも出ないんだよな。
ねえ、マジでいないの?マジでマジでマジでいないの?」
「マジでマジでマジでいません」
「ところでゴルゴさん、亮様の事なんですが、何かあったのでしょうか?
ここ最近、いつもと様子が違うと言いますか、変…と言いますか…」
「何かね…(あったべ?このみちゃんと別れたんだから)」

「食事も召し上がらないで お酒ばかり飲んでいるようですし、
それに夜も寝ておられないようなので…少し心配です…」
「ふ~ん…」
(夜も寝てない…か。 って事はやっぱ…亮の方が振られたのかな…)

(だってこのみちゃんは「私が悪いの…」とかって言ってたけど、
それって女が男を振った後に、一番使われる ありがちなセリフだろ?)
(亮の様子もおかしいって事だし…ぜって~アイツの方が振られたんだな…。
しかも結婚間近でバッサリと。あーあ…亮は ああ見えて案外、弱いからな…)

(特に女に関しては意外とモロいとこあるしよ…
前のリンダって女?あの子の事でも相当引きずってたようだったし…)
はっ!
(まさかアイツ…変な事でも考えてんじゃねーべな?)

(例えば…例えばの話、やぶれかぶれになって「もう生きててもなんの価値もない!
俺なんか…俺なんか~!」とかって湖に身を投げちゃったり?)
(い…いやいや、まさかまさか。アイツに限ってそんな事はねーよな…。
それは大袈裟としても、落ち込んでる事は確かだ…。ここはもう少し様子を見た方かいいかもしんねーな…)

(そうだ…ヘタに追い討ちをかけるような真似して、
もっと追い込んだりなんかしたら、それこそ湖にドボン。はあ…そんでなくてもローリーの事で頭いてーのになんなんだよ~)
「あの…ゴルゴさん…」
「あ?」


「百面相をしてないで その…亮様の事なんですが…」
「ああ、大丈夫だろ。このみちゃんと別れたせいで湖に身を投げるって言っても、
俺の考え過ぎかもしんねーしな……」
「え?別れた?湖に身を投げる?」

「あ?」
「今、別れて湖に身を投げるとおっしゃいましたか? …も、もしや亮様とこのみ様が…?!」
「あ、いや、俺も何がなんだかさっぱりなんだけどよ…
まあこの話は聞かなかった事にして。あんまり俺がベラベラと…なにやってんの?」


「電話です。亮様に」
「ちょ…ちょっと待ってくれよ!亮に電話って、電話して何て言うつもり?」
「もちろん、早まった真似をしないよう、説得するのです」

「説得って…だから それは俺の勝手な妄想であって…」
「それにあの二人は別れてはなりません。
何故なら、あんなに お似合いの お二人はどこを探してもいないからです」
「い、いやいやいやいや、ちょっと待って!
マジでマジでちょっと待ってってば!頼むから~~!」


「ダメです、留守電です」
「お、おどかさないでくれよ~~」

「しかし…どうして亮様とこのみ様が…」
「なあ、ここはさ、知らんふりしてた方がいいと思わね?
あんまし問い詰めて もっと話がこじれると大変だしさ…」

「ですが鉄は早いうちに打てと申しますし。あんまり溝が深まりましても心配です…」
「それもそうだけどよ…」
「とにかく、お二人は絶対に別れてはなりません。さっきも申し上げましたように、
お二人はとてもお似合いなのです。そう、あなたとローリーさんのように」

「え?」
「あなたとローリーさんですよ。あなた達も とてもお似合いですよ」
「ってあの…俺さ、カイルにローリーの事、言ったっけ?」
「この間おっしゃってたじゃありませんか。ほら、食事をしながら私に」

「あ、あれはあくまでも友達の話でだな…って言うか今は俺の話じゃなくて亮の…」
「ですから!いいですか?さっきも申し上げましたが、早いとこ、鉄は熱いうちに打った方がよいと、私は思いますよ」
「だからカイル…あれは…」
「あれはもクソもありません。早いとこローリーさんを とっ捕まえなさい!」

「とっ捕まえるって……カイル…」
「さて、では私はお部屋の掃除をしてまいりますので」

「ちょ…」
「やれやれ…鉄は覚めたら にっちもさっちも行かないのに…」


「ちょっとぉ~~~!」
カラン…


「もう一杯くれ…」
「お客様…少し飲みすぎでは…」
「いや、大丈夫だ。頼むから酒をくれないか…」
「ですが…」

「大丈夫だから…」
「かしこまりました…」
そうだ、確かに飲み過ぎてる。だけど全然酔えないんだ…。
こんなにキツイ酒を何杯もガブ飲みしているのに、酔うどころか頭はスッキリと冴えてやがる。

亮は自分が女に振られて酒に溺れているのを、心のどこかで笑っていた。
これじゃまるで安っぽいメロドラマだ!はたから見たらさぞかし笑えるだろう。
まさか自分がこんな風になるなんて…。俺はこんなに弱い人間だったのか?
何もしたくない、何も考えたくない程に崩れる程、弱い人間だったのか?

リンダの時はどうやって乗り越えた?あの時も俺はこんな風にボロボロになったはずだ…
それでも俺はちゃんと自分を取り戻した。なら、今度もそうすればいい。
だけどこんなに胸を鷲掴みにされる程痛いのに、
いったいどうやったら この痛みを忘れて自分を取り戻せるんだ?

無理だ!この痛みを抱えたまま立ち上がる事なんて出来ない…
その時ふと、亮はカウンターの隅に目をやった。

そういえばここは、始めてこのみを抱いた夜に来た店だ。
あの夜、俺は震える彼女の手を握り、自分の家へといざなった。
そして彼女の小さな体を抱き上げ、ベットで愛を交わした。
あの時の、手に負えない程の愛おしさは、言葉では言い表せない。



自分が生きてきた証がそこにあると、感じた瞬間だった。
自分はこの女性に会うために生まれて来たのだと……
どうしてあの時、別れを告げられたあの日、あんなにすぐに引いてしまったのだろう。

もっと彼女を揺さぶって別れの理由を聞けばよかった。
それは今からでも遅くないのではないだろうか。
別れの理由?いや、そんなのはもうどうでもいい。
ただ今は、もう一度彼女に会って、あの時の二人の愛の瞬間は本物だったと確認したい。

そう、二人が共有した時間が本物だったのかどうか…自分が聞きたいのはそれだ。
それだけが聞きたい。
亮はカウンターに金を置き、ゆっくりと立ち上がり店を出た。


外は雪だった。
しんしんと降る雪が頬を撫でて行き、彼の頭をますますスッキリさせて行く。
やがて亮は歩き出した。

自分が求めている、ただ一つだけの答えを探しに。
「このみ、もう帰るの?」
「うん。ローリーも終わりでしょ?一緒に帰ろうよ」

「ううん、私はまだよ。後2時間」
「って…最近、働きすぎじゃない?この間も休みなのにシフト入れてたしさ。
絶対に体壊すって。それに最近、顔が青いよ?大丈夫?」
「大丈夫よ。そういうあんたも青いわよ。大丈夫?」
「大丈夫よ」

「このみ…亮さんとはあれから…?」
「なにも。会いにも来ないし、電話もないわ。当たり前よね…」
「そっか…。 聞いていい? あのさ…亮さんにはなんていって別れたの?」

「たぶん、ローリーの想像通りよ。そう、好きな人が出来たって言ったの」
「やっぱり…」
「だってそれしかないしさ…。前の彼からね…結婚を申し込まれたって…
だからそういう事だからって…そう言ったの…」
「うわ…それきっつ…」

「しょうがないよ…」
「で、あのお嬢様はあれから何か言ってきたの?」
「何も…。でも彼女は分かってると思う。きっと彼女は何もかもお見通しよ…」
「そうね…魔女みたいな女だかんね、あの女は…」

「でもね…ちょっと思ったんだ。彼女…麗華さん。彼女ね…亮さんの事…きっと本気なんだと思う…。
彼女もあんな事をしたくてしたんじゃないと思うのよ…」
「はあぁ?」

「だからなんとなく、麗華さんの気持ちも分かるなって…」
「なに寝ぼけた事言ってんの?あんたは女神様かってーの!」

「そんなんじゃないわよ…。でもね…彼女…私にあんな事を言いながら、
とても苦しんでるように見えたの。苦しくて…辛そうだった…」
「まったく!あんたにかかっちゃ、超極悪人も善人ね!」
「ちゃかさないでよ」
「ちゃかしてないわよ、呆れてるの!」

「だってほんとうに そう見えたんだもん…」
「ああ、分かった分かった。もういい、聞きたくない!」
「言っとくけど私は、あのお嬢様は鬼しか見えないわよ。あんたが何を言ってもね!」
「もう…ローリーったら…」

「あんたと喋ってたらイライラする!もう帰ってよ。こっちはまだ仕事なんだから」
「ローリー、そんなに怒るとシワが増えるよ?」
「うるさい、いいから帰んなよ」

「はいはい。ローリーもあんまし無理をしないでよ」
「じゃね、お先に~」
「とっとと けえれ~けえれ~」


(まったく!なんで私はあのトンチンカンと友達なわけ?
あのイラつく性格!物分りのいいフリ!いいこぶりっこ!ああ!ムカつく!)
(あーあ、ローリーを怒らせちゃった。無理もないか…。誰だってそう思うわよね…)

(でもあの時、麗華さんが声を荒げた時にほんとうにそう思ったんだもの…)
彼女もつらいんだろうなって…

そう思ったのよ…
アパート前


(あれ?あれって…隆…君? そうよね…どうみても彼だわ…。どうして彼がここに?)
「隆君?隆君でしょ?」


「やあ、このみちゃん」
「どうしたの?こんな遅くに…」
「ああ、ごめん。ほら、この間、君に借りっぱなしだったCDを返すって言ってただろ?
ちょうどこの近くで用事があってさ…だから…」

「そうなの。わざわざいいのに…」
「全然わざわざじゃないんだ。ほんとについでなんだ…」
「ずっと待ってたの?寒かったでしょ?」
「いや、そうでもないよ…。もう少しで帰ろうと思ってたんだ…もう遅いしね…ほんとにごめん…」

「やーね、謝らないでよ、親切で持ってきてくれたのに(笑)」
「ちょっと入ってお茶でも飲んでいって。このままだと風邪をひくわ」
「でも…こんな夜更けに」

「いいわよ、ちょっとぐらい。あ、でも変な事はなしよ!
ちょっとでも変な事したら大声出しながら顔を引っかいちゃうんだから!分かった?」
「君、ほんと性格変わったね(笑)怖くなったんじゃない?」
「そうよ~~!私ってほんとはすっごく怖い女なんだから!(笑)」
「じゃ僕がガオーっと狼になったら一発でノックアウトだ(笑)」

「そういう事!(笑) 寒いから早く中に入ろう。ほんとに風邪ひいちゃう」
「やっぱやめようかな~怖いし~」

「もう!(笑)」
亮は二人が家に入るまで、身動きできずに立っていた。
二人の会話はほとんど聞こえないが、とても楽しそうだ。


彼はこのみのアパートに30分程前に着いていたのだ。
だがすぐに先客がある事に気がついた。あの男だ。
亮はその男が不審者なのかと思い、声をかけようかと思った。
しかし、それは違うとすぐに思いなおした。

何故なら、どう見ても不審者には見えない身なりをしていたし、
それに…そう、彼はピタリと止まったからだ。このみの部屋の前で。
それを見たとたん、亮は声をかけるのをためらった。嫌な予感がする。
そんな時だった、彼女が帰宅して彼に声をかけたのは。
彼女がその男に声をかけたとたん、予感が的中した事を悟った。

二人は楽しげに会話をしている。笑いながら、じゃれ合うように。
ああ、そうか…きっとあの男は、このみの帰りを今か今かと待っていたのだろう…。
そうだ、だって今夜は週末じゃないか。恋人達のお楽しみの時間だ…。


なるほど、あの男か…彼女が言っていた、前の男と言うのは…
いや、前のではなく、今の男だ。
「はは…前の男は俺の方じゃねーか…」

亮はなんだか笑いたくなった。自分のバカさ加減がうんざりする程面白い。
彼はすぐにタクシーを止めて乗り込み、行き先を告げる。

あのまま、あの二人に割って入って彼女を問いただしたら、
自分の求めている答えが聞けたのだろうかとぼんやりと考える。
窓の外を見ると雪はますますひどくなっているようだ。
あの、別れの日と同じように町を白く染めて行く。

今夜は再出発のカップルが未来を語りあい、
お互いを温め合うには魅力的なシチュエーションだろう。
今宵、二人は身を寄せ合い、
幻想的な空間の中で、ドラマチックな夜を過ごすに違いない…

二度目の恋…タイトル一覧は 「こちら」
ストーリー別一覧は 「こちら」
第45話 「空回りする粉雪」
*二度目の恋 君に逢いたくて…第45話
-翌朝-

コンコン…
「おはようございます」
コンコン…
「亮様、起きていらっしゃいますでしょうか。朝食の準備が出来ております」

「亮様?」
このみから突然の別れを言い出された亮。
まだ信じられない、彼女があんな事を言うなんて。

夕べは一睡も出来ずに、ただ呆然と冷え切った部屋の中で固まっていた。
心も体も動かない。時間の感覚さえ分からなくなっていた。
カチャ
「おはよう、起きてるよ。悪いけど食欲がないんだ。朝食はいらない」
「ですが…」

「ごめん、本当に食いたくないんだ」
「そうですか…かしこまりました…」
彼女が言った事は本当なのだろうか?
今までの俺への気持ちは憧れだったと?前の男と別れたせいで淋しかっただけだと?

挙句の果て、その男からプロポーズされたからヨリを戻すと?
今まで俺と二人で過ごした日々は何だったのか。すべて偽りだったのか?
いいや、違う!彼女の俺へ向けたあの眼差しには愛が感じ取れた。
偽りなんかじゃない、本物の愛が確かにそこにあった。

何か事情があるのかも知れない。
俺がサンセットバレーで一からやり直す事に不安を感じていたのだろうか…。
そうだ、ルビーの事で全財産を投げ打とうとしてる事に不安があってもおかしくはない。
俺は一人で突っ走り過ぎてしまったのかもしれない…。

いずれにしろ、何らかの理由があってあんな事を言い出したに違いない。いったい何なんだ?
それとも…まさか本当に彼女はあの男と…?
ああ…結局そこにたどり着いてしまう。何度考えても行き止まりだ…。
亮の頭に繰り返し同じ事が消えては浮かんでいた。

結局最後には一番認めたくない答えに行き着くのに、
自分でも呆れる程、考える事をやめられない。息が詰まりそうだ。
もう分からないよ…。何故、突然あんな事を言いだしたのか…。

俺には君が分からないよ…。
ツルルルルル…
ツルルルルル…

「ただいま出かけております。発信音の後に…」
(電話……亮さんかな……)

なんて…まさかね…。あんな事言ったんだもん…。彼から電話がくるなんてありえない…。
一方、亮に別れを告げ、やっとの事で家に帰り着いたこのみ。
このみも亮と同じように、夕べは一睡も出来ないでいた。

寝たら最悪な夢を見る事は分かっていたからだ。
もっとも、ベットに入ったところで睡魔がやって来るとは到底思えなかったが。
目を閉じると、夕べの彼の悲しそうな顔ばかりが目に浮かぶ。
彼のあの、驚きと衝撃の顔。

そして「お先に…」と言った時の失望の声。その事を思い出すと自分が許せなくなる。
ああ…彼を傷つけた自分をこの世から無くしてしまいたい。
だが…いくらそう思っても、ああするしかなかったと思っている。
彼を納得させるためにはあの方法しかなかったからだ。

普通の理由じゃ彼は絶対に引き下がらない。
そう、もし時間が戻って、また同じ場面に差し掛かっても同じ事をしたに違いない。
もうすべてが終わったのだ。この先、前の男へ走った私を彼は決して許しはしないし、
そしてあの力強い腕に私を抱き寄せる事も二度とない…。


ツルルルル…
ツルルルル…
「………」

「雪が止まないな…」
「変だな…」


「なんだ?どうした?」
「このみよ…この間から何回電話しても電話に出ないって言ったでしょ?
あんまりにもおかしくない?携帯も家の電話も出ないのよ?」

「そうだな…。だけど彼氏でも出来てデートとかで忙しんじゃねーのか?」
「まさか。彼が出来たなら私に真っ先に言うはずよ…」
「あ、分かった。お前、絶交されてっとか?」
「なんで私が絶交されんのよ?」

「俺のせいでさ。まだ俺を忘れられなくて、お前と話したくないわ~みたいな?」
「あ~~それはないない、ありえない。ジーンの事なんてと~っくに忘れてるわよ」
「へいへい、さいですか…。 なあ、ところでさ…今月……あった?」
「何が?」

「何がってお前……毎晩頑張ってる証だよ。俺らのベイビーさ♪」
「残念でした。いま、まさにそれ」
「げ~っ…」がっくり
「なにその大袈裟な肩の落としよう」

「だってしたら今晩…」
「なにが今晩よ、ジーンの頭にはそれしかないの?」

「だってだって俺朝っぱらから…
うなぎとスッポンと山芋と納豆、もりもり食べちゃった…元気いっぱいなの…」
「ばっかね~(笑)」
「ふ、風呂でやる…?」

「ば~か(笑)」
「と言うかさ、ジーン、なんか間違えてんじゃない?」
「あ?」

「放出する場所よ!」
「ば、ばか!いくらなんでも間違えるか!」
「だってさ~こ~んなに頑張ってるのにさ~」
「ま、まさか…いくらなんでも…」

「な~んて冗談よ(笑)ジーンったら本気にしちゃって(笑)」
「な、なんだ…冗談かよ…り、リンダちゃんたらぁ~あはは…はは…は…」
「さて、お昼の買い物でも行って来るわね」
「お、おう…」


「………」
ピッ


「もしもし唐沢?俺…ジーン…。あのさ…医学的にちょっと聞きたい事が…」
「うん…その…あ、穴の位置関係…につい…て…ゴニョ…」
「位置関係?ってなんだ今更。ピーチボーイでもあるまいし(笑)」


「いいから黙って答えろよ!あのよ…あれはやっぱさ…前…だよな?」
「あったりめ~だろ~!そんなもんおめ~前に決ま…あ、こら!そこに穴掘んな!」


「え?」
「こらこらこら!そこはダメ!
その雪の下には、せっかく俺の可愛い可愛い嫁さん(稲子)が作った花壇があるの!」


バウ?
「いいか、よく聞け。掘るなら後ろだよ!後ろ!分かったか、ボケ~~!」


「な、なんかよく聞こえないんだけど…。お前いま後ろって言った?
って…おいおい…いくらなんでもそれはちが…」
「ああーーーダメダメ!前はダメだっつーの!さっきから後ろって言ってるだろ~が!
お前は前と後ろも分かんないのか!怒るぞほんとに!」


「バウ~~」
「いや…唐沢…だからな、それは後ろじゃなくて前だろ…やっぱり…。でしょ?」


「いいや!前じゃなくて後ろ!」きっぱり
「そうそう…いいぞ~後ろだぞ~~バックだバック…カモ~ン…」

「バウ!」
「嘘…」


「わりーわりーうちのバカ犬がよ……ジーン?」
ツーツーツー
「切れちまった…」

「あれ?ひょっとしておれの出番って…これだけ?」
ヨロ…
「まさか俺…マジで間違えてた?い、医者のアイツが言うんだ…間違いねー…俺とした事が…。
と言うか俺の今までの人生ってなんだったんだ?違う場所で喜んでる俺って…」

「まいったな…後ろが正解とは。赤ん坊が出来ないはずだ。
この先、いきなり方向転換できるのか、俺! と、言いつつ、ちょっとワクワクだけど…」おいおい…
「しかしな…リンダになんて言い訳したらいいんだよ…実は今までのは間違ってて、
本当は後ろでした、な~んて言ったらアイツ、ぜってーキレそう…」

「いや、無理無理、間違ってもそんな事は言えない。しょ~がね~…
こうなったら知らんフリして後ろに転換するしかねーよな…。大丈夫だろ…きっとアイツ…」
「気付かないよね?」気付くよ、おたんこなす!(笑)


(リバービュー)
「う~~さみ~~なんだこの寒さ。凍えちまうぜ…まったく…」

「んだよ…しけってるじゃんか~~火~つけよ!このやろ~~!」
ローリーが電話に出ない事にイライラしているゴルゴ。もはやイラつくというよりはムカつきに近い。

なんで電話に出ないんだ?いくらあの時、ちょっと言い合ったからって、これはないだろう?
こんなに毎日毎日電話してるのに…
毎日酒をかっくらってベットに入ってもちっとも眠れない。無理やり寝ようとしても、
すぐにローリーとの、あの悩ましい一夜の事ばかり思い出し、かえって興奮する始末。

このままだと俺は寝不足で死んでしまう!
「くそ!」


ゴルゴは気がつけば、そこらへんにあったGパンを履き、上着も着ないで外に飛び出していた。
そしてやって来たのはもちろん、ローリーが住んでるアパートの前。
ゴルゴは直接ローリーをとっ捕まえようとタクシーを飛ばしてやって来た。

「このやろ~…さみーじゃねーか…」
よ~し…今日こそはアイツにちゃんと言うぞ。
まずは穏やかに話し合ってだな…そんで俺の気持ちを言えばいいんだよ…だろ?

こう言う時はあれだな、ごちゃごちゃ言わねーでズバリと言った方が早えーな。
そうだ…俺はお前がだな…その……す…す…す…すき…
「やき…」

ちゃうちゃう、そうじゃねーし…。じゃなくて、俺はお前が…す…す…す…
「すき…」

「ゴルゴさん!」
「わ!びくった~」
「どうしたんですか?こんな朝早くに?」

「ど、どうしたってその…さ、沙織ちゃんも早くからお出かけ?」
「ええ、私最近、ジョギングを始めたんですよ。ちょっと太り気味で(笑)」
「あ!ひょっとしてゴルゴさん、ローリーさんに会いにいらしたんですね?」
「え!?あ…えっと…まあ…その…べ、別にそういう訳じゃ…ゴニョ…」

「隠さなくてもいいですよ(笑)」
「いいですよって…(ずいぶん明るくね?)」


「上着も着ないで寒くないんですか!」
「さ、寒いね…確かに…」
「そうだ…俺さ、君に言わなければならない事があったんだ…」
「私に?」

「うん…。ほら…この前会おうって約束しただろ?あの時話そうと思ったんだけど…」
「そうだ!私ったらごめんなさい!あの時はすっぽかしてしまって…」
「いや、いいんだ、それはもう…。んでさ…その…」
「ゴルゴさん、私もういいんです」

「え?もういいって…何が?」
「私に言いたい事の内容ならもう、分かってますから。
あの日、ゴルゴさんが私に何を言おうとしてたのか、本当はとっくに察してました」

「だけどそれを受け止めるのが怖くて…」
「悪あがきしちゃったんです、私(笑)
でも もう大丈夫です。私のゴルゴさんへの恋は終わったんだと…ちゃんと分かってますから…」

「沙織ちゃん…」
「私、ゴルゴさんには感謝してるんですよ」
「俺に?」

「はい。あんな気持ち、生まれて初めてでした。とても不思議な感覚。
ドキドキして息苦しいのに、何故か体は妙に興奮しちゃって…今にも空高く飛べそうでした…」
「そして普段なら出来ない事も、全部出来そうな気がしました。
だから出来たんです、あたなに好きと伝える勇気が」

「あれが恋なんですね…。とても熱くて切なくて。
きっとこれから先、あんな感覚を味わう事は二度とないかもしれません」
「いや、そんな事はないさ。
また人を好きななれば、同じように熱くなるよ。大丈夫、俺が保障する」

「ほんとですか(笑)
なら私、ゴルゴさんが保障してくれる事ですし、もう一度 恋をしてみようかな(笑)」
「うん(笑)」
「わ!大変!ゴルゴさん、早くローリーさんのお部屋に行ったらどうですか。凍えちゃいますよ!」
「あ…ああ…まあ、そうだな…うん…じゃ…ローリーのところへ…」

「早く行ってあげて下さい(笑)」
「う、うん…」
「あれ?お二人とも、こんな朝早くからどうしたんですか?」


「よう、鈴之介じゃねーか」
「ゴルゴさん…寒くないんですか…そんな半袖で…」
「うるせーよ…」

「風邪ひきますよ?」
「お、ちょうどいいや。
お前のそのマフラー…さぞかしぬくいんだろうね…俺にちょっとそのマフ…」
「あ!分かりました!」
「聞けよ…。だからちょっくらそのマフラー…」

「ゴルゴさんは沙織さんに会いにいらっしゃったんですね!」
「はい?」
「僕は野暮だな~~(笑)すみません、お邪魔してしまって」
「何言ってんだよ…とんちんかんな事言ってんじゃねーよ…。だいたい、俺と沙織ちゃんはだな…」

「隠さなくてもいいじゃないですか!もしや照れてるんですか?(笑)」
「そうじゃなくって…」
「ええ、そうなんです!ゴルゴさんったら私に会いに朝早くから来てくれたみたいなんですよ!」


「あ?」
「いや~うらやましいな~!銀世界の中でのデートとは、なんとロマンチック!」
「なにがロマンチック…。お前ね、さっきから言ってる事がおかしいんだよ…。あんな…」

「ええ!ゴルゴさんったら本当に素敵ですよね!」
「さ、沙織ちゃん…?」
「そうだわ!これから私、パンケーキを焼こうと思ってたんです!
よかったらお二人ともいかがですか?」

「そんな!お二人のお邪魔するほど僕も野暮じゃありませんよ(笑)」
「まあ、何をおっしゃってるんですか!遠慮なさらず!」
「ゴルゴさんも中へどうぞお入りになって!」

「あの…もしもし?沙織ちゃん…俺はね、ローリーの所へ…」
「沙織さん、お気持ちは嬉しいですが、僕はほんとうに…」

「いいえ、鈴之介さんもどうぞ中へ。私達の事ならお気になさらないで下さい。
そんな事で気を悪くするゴルゴさんではありませんので」
「そうですよね!ゴルゴさん!」

「え?あ…はい…」
(じゃなくて…何言ってんだ…俺…)

(な…なんかこれ…おかしくね?)
「さあ、どうぞ召し上がって下さいね♪」


(これって何かの罰ゲーム?)
「申し訳ありません…せっかくのお二人の時間をお邪魔してしまって…」
「いや…だから俺と彼女は…」

「でもお二人は結局うまくいったようですね!
こうしてゴルゴさんが訪ねて来られるぐらいですから。僕も安心いたしました」
「ちょっと俺の話聞けって…だからな、鈴…」
「はい、うまくいってます」

「うふふ…。ゴルゴさんってとっても優しいんですよ。私…とっても嬉しいです…」
こらこら…何言っちゃってんの?

「さ、沙織ちゃん…あのさ…さっき…たった今…その…言ったよね…?」
「ゴルゴさん、又二人でデートしたいですね♪」

「ねっ言われても…。そう言う話じゃなくてね…ほら…さっき君…言ってたよね?俺との恋は…」
「デートと言えば…」
「って…俺の話聞いてる?ね、聞いてる?」


「鈴之介さんもつい先日、素敵な女性とデートしたんですよね?」
「え…」
「この間嬉しそうに出かけていったじゃありませんか…。前にお会いした方とデートすると…」

「あ、ああ…ええ…まあ…」
「え?鈴之介、そんな女いたの?」
「ええ…一応…」

「へ~~なんだよ、案外やる事やっちゃってんじゃん」
「ぼ、僕はやる事なんて…」
「ええ、そうですね。やる事やっちゃってますね」

「さぞかし素敵なデートだったんだろうと思いますわ…」
「で、どこ行ったの?あ、お前の事だから、公園でお弁当広げて~てか?」
「いいえ、きっとお花がいっぱいある、素敵なレストランに行かれたのでは?」

「いやいや、鈴之介だもん。ぜって~公園でお子ちゃまデー…」
「いいえ、絶対にお花がたくさん、たくさんあるレストランに行かれたと私は思いますわ!」

「そしてその後はお二人でクスクス笑ったりクスクス笑ったりクスクス笑ったりなさったのでは!?」
「な、何故それを…」

「女の第六感ですわ!」キッパリ
「ほ…ほ~お前にしては中々じゃん…」

(なんだか沙織ちゃん…前よりも数段に迫力が増してると思うのは俺だけ?)
「ま、まあ…中々楽しいデートでした…。あ、あの…僕の話しはもうこのへんで…」
「その後はどうなさったのですか?」

「え…」
「その後です。どこへ行かれたのですか?」
「え、えーと…そ、その後は…そのまま公園を歩いて…」

と、トボケル鈴之介
「ま、いいじゃん。お前のデートコースを聞いてもな~」


「そういえば…]
「最近、町の外れでどピンク色の建物を見かけました。ゴルゴさんはご存知ですか?」
「どピンク色?そんな建物あったっけ?」

「ええ、あります。と~っても派手でケバイ建物なんですよ!」
「派手でケバイか…。としたらその建物はアレっしょ?」
「そうアレですね」
「え?沙織ちゃん、あれって分かってんの?ね、分かってんの?」

「あんなピカピカしてていやらしい…」
「いやらしいって…あ、知ってんだ?ね、知ってんだ?てかさ、俺の話し聞いてる?」
「あれは何をするところなんでしょうね?鈴之介さん?」←聞いちゃいねー
「え!」ギクリとする鈴之介


「ぼ、僕に聞かれても…」
「あ~ダメダメ。鈴之介に聞いても無理ってもんよ。絶対に鈴之介は利用しそうにない所だもん」
「そうでしょうか?そう決め付けるのは失礼じゃありません?」

「失礼?いや…だけどさ…あの建物は…だから沙織ちゃん、あの建物の意味は…」
「ゴルゴさん、あなたも利用した事があるんじゃありません?」
「お、俺はあるって言うか…昔の事って言うか…
で…でもでも俺はそんな趣味の悪い、どピンク色でいかにもっつーラブホは…ゴニョ…」
「あるんですか!ないんですか!」

「あります!」何故か敬語のゴルゴ(笑)
「それなら鈴之介さんだって利用しますよ」
「そうですよね?鈴之介さん?」
「ぼ、僕は!」

「僕は、何ですか?」
「ぼ、僕は…なんの事か…」
「沙織ちゃん、鈴之介は何の事か分かんねーって。聞いても無理っしょ?」
「ゴルゴさんは黙ってて下さい!」

「でもさ…」
「シャーラップ!」
「はい…」

(なんかおかしくね?これってどういう状況なんだろ…?さっぱり分かんねーし…
つうかなんか俺だけ仲間外れっぽいと思うのは気のせい…?)
「でもそうですよね、まさか鈴之助さんがあんな野蛮な場所へなんか行きませんよね。
私ったらなに変な事聞いてるのかしら(笑)あらやだ、冷めちゃったわ」

「だけどあんな場所へ行く人の気が知れませんわ~
まあ、鈴之介さんは絶対に絶対に絶対に行かないでしょうけど!」
「でも案外分かりませんよね。男なんて所詮、優しくて紳士そうなツラしてても、
お色気ムンムンのアッパらパーの女性に誘われたりなんかしたら…」

「ああ汚らわしい!」
「いまツラっていったよね…アッパラパーっていったよね…」

(沙織ちゃんがなんかおかしい…)
「やだ!私ったら(笑)鈴之介さんはそんな訳は絶対に絶対に絶対にないのに!」

「そうですよね、鈴之介さん?」
「え…ええ…まあ……」
「まあ、私ったらお茶もお出ししないで、ごめんなさい(笑)つい話に花が咲いてしまいましたわ!
喉が乾きましたわよね」

「そう言えば美味しい紅茶があるんだったわ!私大好きですの!まだまだお喋りしたいし、
お二人共もちろん、飲みますよね?」
「いいえ…」


「結構です…」しろ目(笑)
「はあ…なんか息がつまった…。それにしても沙織ちゃん、なんか変じゃね?
怒ってるって言うかさ。前にも増して迫力あったよな。いったいどうしたんだ?」

「それにいやにピンク色の建物の事も気にしてたしよ~なんでだろうな…。
おい…鈴之介?俺の話聞いてる?」
「おい…お前顔面蒼白だぜ?大丈夫か?」
「だ、大丈夫です…ちょっと寒くて…」

「それにしてもお前がデートとはな。で、どこで捕まえたの?」
「え…」
「お見合いとか?」
「い、いえ…そんなんじゃありません…。か、彼女とはその…前に街で会って…食事を一緒に…」

「え?まさかナンパ?まっじ~~」
「ナ、ナンパなんてそんな軽薄な…」
「だってその女とは初めて会ったんだろ?」
「まあ…そうですが…」

「それをナンパって言うんだよ」
「で、ですから…させ子さんとは…そんな…」
「させ…子?もしかしてその女の名前、させ子って言うのか?」
「はい、そうですが?」


「ぶーーーーーーーーーーー!させ子だってよ、させ子!
マジかよ~!親もよくそんな名前つけたよな(笑)どんな女か見てみて~~」←お前は見てる
「な、何がそんなにおかしいのですか?」
「だってお前、させ子だぜ?いや~~笑った(笑)」

「べ、別におかしくないのでは?」
「本気で言ってんの?どうみてもおかしいだろ~よ~(笑)」
「まあ、いいや。ところでさ、沙織ちゃんも言ってたけど、そのピンク色の建物?
お前、ほんとに知らないの?」

「え!?」
「はは~~ん…お前実は知ってんだろ?ムッツリスケベだもんな、お前」
「し、しっけいな!ぼ、僕は…」
「あ、もしかしてデートの後、その女とそこへご休憩に行っちゃったりなんかしちゃって?」

「な、なななな 何を言うのですか!?」
「うわ~~~マジかよ~~」
「ゴ、ゴルゴさん!な、なにを根拠にそんな事を言うのですか!僕は不愉快です!」
「だってお前のその態度、どう見ても変だろ?」

「なあ、別にいいじゃん、行ったって。お前だって健康な男子なんだしさ。で、行ったんだろ?」
「ぼぼぼぼぼぼ、僕はそんな場所へは!」
「ぶは!ぜって~行ったね。賭けてもいい」
「ぼ、ぼくは…僕は…」

「行ったんだろ?」
「ぼ、僕は行って…行って…」
「そ、そんな派手なベットがある所へなんか行ってましぇん!不愉快だ!失礼します!」
「ぶは!」


「ぷぷっ……しぇんだってよ、しぇん…」
「益々相手の女、見てみてーよな…。どんな女だよ?」


「ビ~~ン~~ゴ!」
ゾク…
「いま一瞬…寒気が…」

「気のせい…?」
続き、第46話へ 「通り過ぎる過去」
二度目の恋…タイトル一覧は 「こちら」
ストーリー別一覧は 「こちら」
-翌朝-

コンコン…
「おはようございます」
コンコン…
「亮様、起きていらっしゃいますでしょうか。朝食の準備が出来ております」

「亮様?」
このみから突然の別れを言い出された亮。
まだ信じられない、彼女があんな事を言うなんて。

夕べは一睡も出来ずに、ただ呆然と冷え切った部屋の中で固まっていた。
心も体も動かない。時間の感覚さえ分からなくなっていた。
カチャ
「おはよう、起きてるよ。悪いけど食欲がないんだ。朝食はいらない」
「ですが…」

「ごめん、本当に食いたくないんだ」
「そうですか…かしこまりました…」
彼女が言った事は本当なのだろうか?
今までの俺への気持ちは憧れだったと?前の男と別れたせいで淋しかっただけだと?

挙句の果て、その男からプロポーズされたからヨリを戻すと?
今まで俺と二人で過ごした日々は何だったのか。すべて偽りだったのか?
いいや、違う!彼女の俺へ向けたあの眼差しには愛が感じ取れた。
偽りなんかじゃない、本物の愛が確かにそこにあった。

何か事情があるのかも知れない。
俺がサンセットバレーで一からやり直す事に不安を感じていたのだろうか…。
そうだ、ルビーの事で全財産を投げ打とうとしてる事に不安があってもおかしくはない。
俺は一人で突っ走り過ぎてしまったのかもしれない…。

いずれにしろ、何らかの理由があってあんな事を言い出したに違いない。いったい何なんだ?
それとも…まさか本当に彼女はあの男と…?
ああ…結局そこにたどり着いてしまう。何度考えても行き止まりだ…。
亮の頭に繰り返し同じ事が消えては浮かんでいた。

結局最後には一番認めたくない答えに行き着くのに、
自分でも呆れる程、考える事をやめられない。息が詰まりそうだ。
もう分からないよ…。何故、突然あんな事を言いだしたのか…。

俺には君が分からないよ…。
ツルルルルル…
ツルルルルル…

「ただいま出かけております。発信音の後に…」
(電話……亮さんかな……)

なんて…まさかね…。あんな事言ったんだもん…。彼から電話がくるなんてありえない…。
一方、亮に別れを告げ、やっとの事で家に帰り着いたこのみ。
このみも亮と同じように、夕べは一睡も出来ないでいた。

寝たら最悪な夢を見る事は分かっていたからだ。
もっとも、ベットに入ったところで睡魔がやって来るとは到底思えなかったが。
目を閉じると、夕べの彼の悲しそうな顔ばかりが目に浮かぶ。
彼のあの、驚きと衝撃の顔。

そして「お先に…」と言った時の失望の声。その事を思い出すと自分が許せなくなる。
ああ…彼を傷つけた自分をこの世から無くしてしまいたい。
だが…いくらそう思っても、ああするしかなかったと思っている。
彼を納得させるためにはあの方法しかなかったからだ。

普通の理由じゃ彼は絶対に引き下がらない。
そう、もし時間が戻って、また同じ場面に差し掛かっても同じ事をしたに違いない。
もうすべてが終わったのだ。この先、前の男へ走った私を彼は決して許しはしないし、
そしてあの力強い腕に私を抱き寄せる事も二度とない…。


ツルルルル…
ツルルルル…
「………」

「雪が止まないな…」
「変だな…」


「なんだ?どうした?」
「このみよ…この間から何回電話しても電話に出ないって言ったでしょ?
あんまりにもおかしくない?携帯も家の電話も出ないのよ?」

「そうだな…。だけど彼氏でも出来てデートとかで忙しんじゃねーのか?」
「まさか。彼が出来たなら私に真っ先に言うはずよ…」
「あ、分かった。お前、絶交されてっとか?」
「なんで私が絶交されんのよ?」

「俺のせいでさ。まだ俺を忘れられなくて、お前と話したくないわ~みたいな?」
「あ~~それはないない、ありえない。ジーンの事なんてと~っくに忘れてるわよ」
「へいへい、さいですか…。 なあ、ところでさ…今月……あった?」
「何が?」

「何がってお前……毎晩頑張ってる証だよ。俺らのベイビーさ♪」
「残念でした。いま、まさにそれ」
「げ~っ…」がっくり
「なにその大袈裟な肩の落としよう」

「だってしたら今晩…」
「なにが今晩よ、ジーンの頭にはそれしかないの?」

「だってだって俺朝っぱらから…
うなぎとスッポンと山芋と納豆、もりもり食べちゃった…元気いっぱいなの…」
「ばっかね~(笑)」
「ふ、風呂でやる…?」

「ば~か(笑)」
「と言うかさ、ジーン、なんか間違えてんじゃない?」
「あ?」

「放出する場所よ!」
「ば、ばか!いくらなんでも間違えるか!」
「だってさ~こ~んなに頑張ってるのにさ~」
「ま、まさか…いくらなんでも…」

「な~んて冗談よ(笑)ジーンったら本気にしちゃって(笑)」
「な、なんだ…冗談かよ…り、リンダちゃんたらぁ~あはは…はは…は…」
「さて、お昼の買い物でも行って来るわね」
「お、おう…」


「………」
ピッ


「もしもし唐沢?俺…ジーン…。あのさ…医学的にちょっと聞きたい事が…」
「うん…その…あ、穴の位置関係…につい…て…ゴニョ…」
「位置関係?ってなんだ今更。ピーチボーイでもあるまいし(笑)」


「いいから黙って答えろよ!あのよ…あれはやっぱさ…前…だよな?」
「あったりめ~だろ~!そんなもんおめ~前に決ま…あ、こら!そこに穴掘んな!」


「え?」
「こらこらこら!そこはダメ!
その雪の下には、せっかく俺の可愛い可愛い嫁さん(稲子)が作った花壇があるの!」


バウ?
「いいか、よく聞け。掘るなら後ろだよ!後ろ!分かったか、ボケ~~!」


「な、なんかよく聞こえないんだけど…。お前いま後ろって言った?
って…おいおい…いくらなんでもそれはちが…」
「ああーーーダメダメ!前はダメだっつーの!さっきから後ろって言ってるだろ~が!
お前は前と後ろも分かんないのか!怒るぞほんとに!」


「バウ~~」
「いや…唐沢…だからな、それは後ろじゃなくて前だろ…やっぱり…。でしょ?」


「いいや!前じゃなくて後ろ!」きっぱり
「そうそう…いいぞ~後ろだぞ~~バックだバック…カモ~ン…」

「バウ!」
「嘘…」


「わりーわりーうちのバカ犬がよ……ジーン?」
ツーツーツー
「切れちまった…」

「あれ?ひょっとしておれの出番って…これだけ?」
ヨロ…
「まさか俺…マジで間違えてた?い、医者のアイツが言うんだ…間違いねー…俺とした事が…。
と言うか俺の今までの人生ってなんだったんだ?違う場所で喜んでる俺って…」

「まいったな…後ろが正解とは。赤ん坊が出来ないはずだ。
この先、いきなり方向転換できるのか、俺! と、言いつつ、ちょっとワクワクだけど…」おいおい…
「しかしな…リンダになんて言い訳したらいいんだよ…実は今までのは間違ってて、
本当は後ろでした、な~んて言ったらアイツ、ぜってーキレそう…」

「いや、無理無理、間違ってもそんな事は言えない。しょ~がね~…
こうなったら知らんフリして後ろに転換するしかねーよな…。大丈夫だろ…きっとアイツ…」
「気付かないよね?」気付くよ、おたんこなす!(笑)


(リバービュー)
「う~~さみ~~なんだこの寒さ。凍えちまうぜ…まったく…」

「んだよ…しけってるじゃんか~~火~つけよ!このやろ~~!」
ローリーが電話に出ない事にイライラしているゴルゴ。もはやイラつくというよりはムカつきに近い。

なんで電話に出ないんだ?いくらあの時、ちょっと言い合ったからって、これはないだろう?
こんなに毎日毎日電話してるのに…
毎日酒をかっくらってベットに入ってもちっとも眠れない。無理やり寝ようとしても、
すぐにローリーとの、あの悩ましい一夜の事ばかり思い出し、かえって興奮する始末。

このままだと俺は寝不足で死んでしまう!
「くそ!」


ゴルゴは気がつけば、そこらへんにあったGパンを履き、上着も着ないで外に飛び出していた。
そしてやって来たのはもちろん、ローリーが住んでるアパートの前。
ゴルゴは直接ローリーをとっ捕まえようとタクシーを飛ばしてやって来た。

「このやろ~…さみーじゃねーか…」
よ~し…今日こそはアイツにちゃんと言うぞ。
まずは穏やかに話し合ってだな…そんで俺の気持ちを言えばいいんだよ…だろ?

こう言う時はあれだな、ごちゃごちゃ言わねーでズバリと言った方が早えーな。
そうだ…俺はお前がだな…その……す…す…す…すき…
「やき…」

ちゃうちゃう、そうじゃねーし…。じゃなくて、俺はお前が…す…す…す…
「すき…」

「ゴルゴさん!」
「わ!びくった~」
「どうしたんですか?こんな朝早くに?」

「ど、どうしたってその…さ、沙織ちゃんも早くからお出かけ?」
「ええ、私最近、ジョギングを始めたんですよ。ちょっと太り気味で(笑)」
「あ!ひょっとしてゴルゴさん、ローリーさんに会いにいらしたんですね?」
「え!?あ…えっと…まあ…その…べ、別にそういう訳じゃ…ゴニョ…」

「隠さなくてもいいですよ(笑)」
「いいですよって…(ずいぶん明るくね?)」


「上着も着ないで寒くないんですか!」
「さ、寒いね…確かに…」
「そうだ…俺さ、君に言わなければならない事があったんだ…」
「私に?」

「うん…。ほら…この前会おうって約束しただろ?あの時話そうと思ったんだけど…」
「そうだ!私ったらごめんなさい!あの時はすっぽかしてしまって…」
「いや、いいんだ、それはもう…。んでさ…その…」
「ゴルゴさん、私もういいんです」

「え?もういいって…何が?」
「私に言いたい事の内容ならもう、分かってますから。
あの日、ゴルゴさんが私に何を言おうとしてたのか、本当はとっくに察してました」

「だけどそれを受け止めるのが怖くて…」
「悪あがきしちゃったんです、私(笑)
でも もう大丈夫です。私のゴルゴさんへの恋は終わったんだと…ちゃんと分かってますから…」

「沙織ちゃん…」
「私、ゴルゴさんには感謝してるんですよ」
「俺に?」

「はい。あんな気持ち、生まれて初めてでした。とても不思議な感覚。
ドキドキして息苦しいのに、何故か体は妙に興奮しちゃって…今にも空高く飛べそうでした…」
「そして普段なら出来ない事も、全部出来そうな気がしました。
だから出来たんです、あたなに好きと伝える勇気が」

「あれが恋なんですね…。とても熱くて切なくて。
きっとこれから先、あんな感覚を味わう事は二度とないかもしれません」
「いや、そんな事はないさ。
また人を好きななれば、同じように熱くなるよ。大丈夫、俺が保障する」

「ほんとですか(笑)
なら私、ゴルゴさんが保障してくれる事ですし、もう一度 恋をしてみようかな(笑)」
「うん(笑)」
「わ!大変!ゴルゴさん、早くローリーさんのお部屋に行ったらどうですか。凍えちゃいますよ!」
「あ…ああ…まあ、そうだな…うん…じゃ…ローリーのところへ…」

「早く行ってあげて下さい(笑)」
「う、うん…」
「あれ?お二人とも、こんな朝早くからどうしたんですか?」


「よう、鈴之介じゃねーか」
「ゴルゴさん…寒くないんですか…そんな半袖で…」
「うるせーよ…」

「風邪ひきますよ?」
「お、ちょうどいいや。
お前のそのマフラー…さぞかしぬくいんだろうね…俺にちょっとそのマフ…」
「あ!分かりました!」
「聞けよ…。だからちょっくらそのマフラー…」

「ゴルゴさんは沙織さんに会いにいらっしゃったんですね!」
「はい?」
「僕は野暮だな~~(笑)すみません、お邪魔してしまって」
「何言ってんだよ…とんちんかんな事言ってんじゃねーよ…。だいたい、俺と沙織ちゃんはだな…」

「隠さなくてもいいじゃないですか!もしや照れてるんですか?(笑)」
「そうじゃなくって…」
「ええ、そうなんです!ゴルゴさんったら私に会いに朝早くから来てくれたみたいなんですよ!」


「あ?」
「いや~うらやましいな~!銀世界の中でのデートとは、なんとロマンチック!」
「なにがロマンチック…。お前ね、さっきから言ってる事がおかしいんだよ…。あんな…」

「ええ!ゴルゴさんったら本当に素敵ですよね!」
「さ、沙織ちゃん…?」
「そうだわ!これから私、パンケーキを焼こうと思ってたんです!
よかったらお二人ともいかがですか?」

「そんな!お二人のお邪魔するほど僕も野暮じゃありませんよ(笑)」
「まあ、何をおっしゃってるんですか!遠慮なさらず!」
「ゴルゴさんも中へどうぞお入りになって!」

「あの…もしもし?沙織ちゃん…俺はね、ローリーの所へ…」
「沙織さん、お気持ちは嬉しいですが、僕はほんとうに…」

「いいえ、鈴之介さんもどうぞ中へ。私達の事ならお気になさらないで下さい。
そんな事で気を悪くするゴルゴさんではありませんので」
「そうですよね!ゴルゴさん!」

「え?あ…はい…」
(じゃなくて…何言ってんだ…俺…)

(な…なんかこれ…おかしくね?)
「さあ、どうぞ召し上がって下さいね♪」


(これって何かの罰ゲーム?)
「申し訳ありません…せっかくのお二人の時間をお邪魔してしまって…」
「いや…だから俺と彼女は…」

「でもお二人は結局うまくいったようですね!
こうしてゴルゴさんが訪ねて来られるぐらいですから。僕も安心いたしました」
「ちょっと俺の話聞けって…だからな、鈴…」
「はい、うまくいってます」

「うふふ…。ゴルゴさんってとっても優しいんですよ。私…とっても嬉しいです…」
こらこら…何言っちゃってんの?

「さ、沙織ちゃん…あのさ…さっき…たった今…その…言ったよね…?」
「ゴルゴさん、又二人でデートしたいですね♪」

「ねっ言われても…。そう言う話じゃなくてね…ほら…さっき君…言ってたよね?俺との恋は…」
「デートと言えば…」
「って…俺の話聞いてる?ね、聞いてる?」


「鈴之介さんもつい先日、素敵な女性とデートしたんですよね?」
「え…」
「この間嬉しそうに出かけていったじゃありませんか…。前にお会いした方とデートすると…」

「あ、ああ…ええ…まあ…」
「え?鈴之介、そんな女いたの?」
「ええ…一応…」

「へ~~なんだよ、案外やる事やっちゃってんじゃん」
「ぼ、僕はやる事なんて…」
「ええ、そうですね。やる事やっちゃってますね」

「さぞかし素敵なデートだったんだろうと思いますわ…」
「で、どこ行ったの?あ、お前の事だから、公園でお弁当広げて~てか?」
「いいえ、きっとお花がいっぱいある、素敵なレストランに行かれたのでは?」

「いやいや、鈴之介だもん。ぜって~公園でお子ちゃまデー…」
「いいえ、絶対にお花がたくさん、たくさんあるレストランに行かれたと私は思いますわ!」

「そしてその後はお二人でクスクス笑ったりクスクス笑ったりクスクス笑ったりなさったのでは!?」
「な、何故それを…」

「女の第六感ですわ!」キッパリ
「ほ…ほ~お前にしては中々じゃん…」

(なんだか沙織ちゃん…前よりも数段に迫力が増してると思うのは俺だけ?)
「ま、まあ…中々楽しいデートでした…。あ、あの…僕の話しはもうこのへんで…」
「その後はどうなさったのですか?」

「え…」
「その後です。どこへ行かれたのですか?」
「え、えーと…そ、その後は…そのまま公園を歩いて…」

と、トボケル鈴之介
「ま、いいじゃん。お前のデートコースを聞いてもな~」


「そういえば…]
「最近、町の外れでどピンク色の建物を見かけました。ゴルゴさんはご存知ですか?」
「どピンク色?そんな建物あったっけ?」

「ええ、あります。と~っても派手でケバイ建物なんですよ!」
「派手でケバイか…。としたらその建物はアレっしょ?」
「そうアレですね」
「え?沙織ちゃん、あれって分かってんの?ね、分かってんの?」

「あんなピカピカしてていやらしい…」
「いやらしいって…あ、知ってんだ?ね、知ってんだ?てかさ、俺の話し聞いてる?」
「あれは何をするところなんでしょうね?鈴之介さん?」←聞いちゃいねー
「え!」ギクリとする鈴之介


「ぼ、僕に聞かれても…」
「あ~ダメダメ。鈴之介に聞いても無理ってもんよ。絶対に鈴之介は利用しそうにない所だもん」
「そうでしょうか?そう決め付けるのは失礼じゃありません?」

「失礼?いや…だけどさ…あの建物は…だから沙織ちゃん、あの建物の意味は…」
「ゴルゴさん、あなたも利用した事があるんじゃありません?」
「お、俺はあるって言うか…昔の事って言うか…
で…でもでも俺はそんな趣味の悪い、どピンク色でいかにもっつーラブホは…ゴニョ…」
「あるんですか!ないんですか!」

「あります!」何故か敬語のゴルゴ(笑)
「それなら鈴之介さんだって利用しますよ」
「そうですよね?鈴之介さん?」
「ぼ、僕は!」

「僕は、何ですか?」
「ぼ、僕は…なんの事か…」
「沙織ちゃん、鈴之介は何の事か分かんねーって。聞いても無理っしょ?」
「ゴルゴさんは黙ってて下さい!」

「でもさ…」
「シャーラップ!」
「はい…」

(なんかおかしくね?これってどういう状況なんだろ…?さっぱり分かんねーし…
つうかなんか俺だけ仲間外れっぽいと思うのは気のせい…?)
「でもそうですよね、まさか鈴之助さんがあんな野蛮な場所へなんか行きませんよね。
私ったらなに変な事聞いてるのかしら(笑)あらやだ、冷めちゃったわ」

「だけどあんな場所へ行く人の気が知れませんわ~
まあ、鈴之介さんは絶対に絶対に絶対に行かないでしょうけど!」
「でも案外分かりませんよね。男なんて所詮、優しくて紳士そうなツラしてても、
お色気ムンムンのアッパらパーの女性に誘われたりなんかしたら…」

「ああ汚らわしい!」
「いまツラっていったよね…アッパラパーっていったよね…」

(沙織ちゃんがなんかおかしい…)
「やだ!私ったら(笑)鈴之介さんはそんな訳は絶対に絶対に絶対にないのに!」

「そうですよね、鈴之介さん?」
「え…ええ…まあ……」
「まあ、私ったらお茶もお出ししないで、ごめんなさい(笑)つい話に花が咲いてしまいましたわ!
喉が乾きましたわよね」

「そう言えば美味しい紅茶があるんだったわ!私大好きですの!まだまだお喋りしたいし、
お二人共もちろん、飲みますよね?」
「いいえ…」


「結構です…」しろ目(笑)
「はあ…なんか息がつまった…。それにしても沙織ちゃん、なんか変じゃね?
怒ってるって言うかさ。前にも増して迫力あったよな。いったいどうしたんだ?」

「それにいやにピンク色の建物の事も気にしてたしよ~なんでだろうな…。
おい…鈴之介?俺の話聞いてる?」
「おい…お前顔面蒼白だぜ?大丈夫か?」
「だ、大丈夫です…ちょっと寒くて…」

「それにしてもお前がデートとはな。で、どこで捕まえたの?」
「え…」
「お見合いとか?」
「い、いえ…そんなんじゃありません…。か、彼女とはその…前に街で会って…食事を一緒に…」

「え?まさかナンパ?まっじ~~」
「ナ、ナンパなんてそんな軽薄な…」
「だってその女とは初めて会ったんだろ?」
「まあ…そうですが…」

「それをナンパって言うんだよ」
「で、ですから…させ子さんとは…そんな…」
「させ…子?もしかしてその女の名前、させ子って言うのか?」
「はい、そうですが?」


「ぶーーーーーーーーーーー!させ子だってよ、させ子!
マジかよ~!親もよくそんな名前つけたよな(笑)どんな女か見てみて~~」←お前は見てる
「な、何がそんなにおかしいのですか?」
「だってお前、させ子だぜ?いや~~笑った(笑)」

「べ、別におかしくないのでは?」
「本気で言ってんの?どうみてもおかしいだろ~よ~(笑)」
「まあ、いいや。ところでさ、沙織ちゃんも言ってたけど、そのピンク色の建物?
お前、ほんとに知らないの?」

「え!?」
「はは~~ん…お前実は知ってんだろ?ムッツリスケベだもんな、お前」
「し、しっけいな!ぼ、僕は…」
「あ、もしかしてデートの後、その女とそこへご休憩に行っちゃったりなんかしちゃって?」

「な、なななな 何を言うのですか!?」
「うわ~~~マジかよ~~」
「ゴ、ゴルゴさん!な、なにを根拠にそんな事を言うのですか!僕は不愉快です!」
「だってお前のその態度、どう見ても変だろ?」

「なあ、別にいいじゃん、行ったって。お前だって健康な男子なんだしさ。で、行ったんだろ?」
「ぼぼぼぼぼぼ、僕はそんな場所へは!」
「ぶは!ぜって~行ったね。賭けてもいい」
「ぼ、ぼくは…僕は…」

「行ったんだろ?」
「ぼ、僕は行って…行って…」
「そ、そんな派手なベットがある所へなんか行ってましぇん!不愉快だ!失礼します!」
「ぶは!」


「ぷぷっ……しぇんだってよ、しぇん…」
「益々相手の女、見てみてーよな…。どんな女だよ?」


「ビ~~ン~~ゴ!」
ゾク…
「いま一瞬…寒気が…」

「気のせい…?」
続き、第46話へ 「通り過ぎる過去」
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第44話 「別れの季節」
*二度目の恋 君に逢いたくて…第44話
- パブ『ウオンテッド』-

(アルバイト先)
させ子と意気込んでデートをしてみたものの、今一つ思い切りが出来なかった鈴之介。
今度こそ沙織を忘れ、新しい未来に向かって歩き出そうとしたのに。

カチャ
「おはようございます…」




僕はどこか、おかしいのではないだろうか。
パタン…

そりゃ~多少?彼女も強引だった事は確かだけど、
でも普通の男性ならあんな時、間違っても逃げ出したりはしないはずだ。
それぐらい、僕にだって分かる。

それなのに僕と来たら…。
しかも僕は二度も同じ事をしてしまった。さぞかし彼女は傷ついている事だろう…。

「はあ~…」
「鈴之介、ちょうどよかった。これ、向こうのテーブルに持ってって」


(もしかしたら僕は一生、沙織さん以外の誰とも結婚どころか、
お付き合いする事や友好を深める事は出来ないのかもしれない…。僕は彼女を一生…)
「ねえ…聞いてんの?ちょっと!」

「鈴之介!」
「うわ!は、はい!」

「なに…その大袈裟な驚き。私はバケ物かってーの…」
「どうしたのよ、ボ~っとして…」
「す、すみません…」

「ちゃんとしてよ。これ、向こうのテーブルに持ってって」
「は、はい…」
「ったく。ボ~っとしたいのはこっちだっつーの…」


カチャ…
(今月…来るかな…。ほんとならあんなもん…煩わしくてちっとも待ち遠しくないのに…)

一方、ローリーはシルヴァーとのあの一件以来、毎日女性としての証が来るのを待っていた。
だが残念ながらその兆しはまだない。
ああ…私と言う人間は、何度同じ失敗を繰り返せば気が済むのだろう。
あの男のせいで人生を無駄にするのは、金輪際やめると誓ったはずなのに…。

あの男を殺してやりたい程憎い。だけどそれと同じぐらい、自分も憎くてたまらない。
でも何度そう思っても結果は変わらないし、時間を元に戻す事は不可能なのだ。
だとしたらいま私に出来ることは一つだけ…。
そう、例え自分の意思ではなくとも、もう同じ事を繰り返し、そして後悔する事はしたくない。

何故なら、もう自分も、そして赤ん坊も自分勝手の都合で傷つける訳には行かないからだ。
だから万が一、そうなってもちゃんと…
そうよ…大丈夫よ…。決してあなたを殺しはしない。
どんな結果になろうと、今度だけは必ずあなたを守るからね…。

だから心配しないで…。
「あ、いたいた」

「ローリー、ここにいたのね。姿が見えないからお休みかと思ったよ」
「このみ…」
「ローリー、どうしたの?お腹でも痛い?」

「う、ううん…そんなんじゃないのよ…」
「それよりこの間はごめん。あんたの気持ちも考えずに偉そうな事言っちゃってさ…。
そうだよね…監督の娘さんの命がかかってるとなると、そうな風に考えちゃうよね…」

「私ね、あの後思ったの。
もし私もこのみと同じ立場だったらきっと同じようにするだろうなって」
「どんなに好きでも、あの女にあんな事言われちゃったら、
きっと私も、亮さんと別れてあの娘を救おうとするだろうなって…そう思ったのよ…」

「それなのに私と来たら…
あんたの気持ちも考えず、勝手な事ばっか言ったね…ほんとにごめん」
「ローリー…」

「ううん…私こそごめんね。気持ちのやり場がなくてローリーにあたっただけだったの…
それにローリーの言う事はもっともだって私もちゃんと分かってる…」
「もっともな事なんて誰だって言えるよ。でも私はあんたの性格をよく知ってるもん。
凄く悩んで出した結論だって気づくべきだった」

「もう何も言わないよ。あんたが決めた事だもの。ただ私はあんたを見守るだけ…」
「で、いつ亮さんには言うの?別れようって……あんたから言うつもりなんでしょ?」
「うん…。亮さんには話があるって言ってあるけど…でも勇気が出なくて…」

「ほんとは毎日、今日言おうって思ってるんだけど…
でも色々と理由つけて先伸ばしにしてる。こうやってわざとバイトを入れたりとかさ…」
「このみ…」
「あーあ!」


「結局さ~~この世はお金なのかな~~」
「なんでよ?」
「だってさ!結局はあの麗華さんのお金に負けたんだもん。
私だってお金があれば、どんな事してでもルビーちゃんを助けてあげるのに!」

「私が麗華さんだったらな~。そうすれば私もルビーちゃんだけじゃなく、
亮さんのチームだって助けてあげ…」
「このみ、それは違うよ。例えあんたに莫大なお金があったとしても、
あんたはあの女のように、金に物を言わせて人の弱みに付け込んだりなんかしない」

「あんたはあの女のような真似は絶対に出来ないよ。それに今回の事で、
彼女は亮さんの体を手に入れられるかもしれないけど、心までは手に入れられないよ」
「だって私知ってるもん。亮さんがどんだけあんたに惚れてるか。
どんだけあんたを大事に思ってるか…どんだけ…あんたを愛しく思ってるか…」

「私は知ってるから…」
「ローリー…」

このみはローリーの言葉に涙が溢れ出た。
そう…彼が私を愛しく思ってくれる。それだけで私は大丈夫…。
「もう!ローリーは泣かせるのがうまいんだから~」

「ね、このみ、二人でさ、どこかパ~っと海外にでも旅行に行かない?何もかも忘れてさ♪」
「そうよ、まかり間違って絶世の美男子と出会えたりして?」
「ローリーったら(笑)」

「それともアラブの石油王とかに見初められたり?あ、あんたならありうる~
そしたらあの麗華なんて足元にもおよばないわよ~」
「ぷっ(笑)」
ああ…親友っていいな…。

リンダ…。リンダ以外に親友なんて出来ないと思ってたけど、それは間違ってたみたい。
私にはこんなにも力強い親友がもう一人出来たよ…。
-翌朝-


「寒いと思ったら雪が降ったのね…。空まで今日の気分にはピッタリ…」
「熱い恋の季節が終わり…そして別れの季節がやって来る…か…」

「ふふ…私って詩人…」
「さて…と…やるか…」

(もう決めたんだから早く言わなきゃ。グズグズしててもしょうがないしね…)
カチ…

(もう時間切れよ…)
「おい…」


「おいって!」
「亮、うるさい。テレビが聞こえないだろ?もうちょっと静かに喋ってよ」

「テレビじゃねーよ!お前、なんで毎日毎日ここへ来てんだよ!?
お前だって俺と一緒に向こうの街に移るんだ!引越しの準備しろって言っただろ~が!」
「だって…」

「なにが だって だよ!」
「だって……」

「だってなんだもん…」
「何言ってんだよ…」
「なあ…亮…このみちゃんにさ…
ローリーが電話に出ないんだけど、なんで?って聞いてくんね?」

「出ない?ずっと?へ~~それはさ、お前もしかしたら避けられてんじゃねーのか?」
ガバ!
「なんでだよ!」

「知るかよ、そんな事。お前またローリーに喧嘩腰に何か言ったんじゃねーのか?」
「え?そ、そんな事…言って…言って…」
「バーカ!せいぜい沙織にも『ふにゃ○○やろ~~!』なんて言われないようにね!」
「なんだとーーーーーー!」

「じゃね~ん♪ ふにゃ○○息子によろしく~」
「ふ、ふざけんな~~~!!!いいか!耳をかっぽじてよく聞け!俺の息子はな~~!」
「鉄より硬く!うまか棒よりぶっといんだぁぁぁ~~!!!」

「分かったか~~!!!」
「い、言ったかも?」

がちょ~ん
「とにかく、そんなにウダウダしてんだったら直接家に行ってみろよ!」
「でも…」

「でもじゃなくて!」
「だって…」
「だってだって言うな!!」


「亮様、このみ様からお電話です」
「このみから?ああ、今行く」
「とにかく!」

「お前はいますぐローリーの家に行け!いいか!」
「だって…」

「だってなんだもん…」
「今夜?ああ、そう言えば話があるって言ってたな。いいよ。じゃどっかで飯でも食うか」
「了解。じゃ7時に」


「はい、では後で」
カチ…
ああ…もう本当に後戻りは出来ない。今夜限りで彼の魅力的で…力強くて…

そして私を愛おしそうに見てくれたあの優しい瞳に包まれる事はもう、二度とないだろう…。
コンコン…
「ローリー、いる?」


「入るよ~」
「このみ。どうした?」
「ね、ローリー、外見て!雪が降ったみたい!真っ白なのよ!」

「見りゃ分かるっつーの」
「だよね(笑)」
「あれ?ところでシルヴァーさんは?」
「出て行った」

「え!?そうなの!」
「出て行ったって言うか追い出したって言うかさ…」
「そっか…。よかった。これでローリーはゴルゴさんに言えるね…」

「それはどうかな…」
「え…」
「このみ…。私ね、やっぱりゴルゴには何も言わない事にした」
「言わないって…どうして?」

「このみと一緒よ…。私にも色々と事情があるの…」
「事情って…」
「もうヤメ。その話は落ち着いたらちゃんとするから。ね?」
「でも…」

「でもはなし。それよりこのみはどうしたの?
何が用事があって来たんじゃないの?まさか雪だるまでも一緒に作ろうってか?」
「まさか…そんなんじゃないけど…でもローリーはゴルゴさんの事…」
「だからその話はいずれ話すってば。それよりほらほら、なによ?」

「うん…。ローリー…私ね、今日亮さんに会って言う事にしたの…」
「ついにか…」
「うん。だからね、今夜が最後がデートなんだ…」

「このみ…」
「自分で決めた事だし、後悔しないって決めたけど、いざ間近に迫ると怖くて…」
「そうだね…怖いよね…」
「ローリー…私ちゃんと言えるかな…亮さんに…ちゃんと…」

「もし嫌なら、今からでも遅くないよ…」
「ううん…それは出来ない…」
「そっか。だったら、自分で決めた事なんでしょ?胸を張っていざ、出陣するしかないね」
「出陣か…」

「ハチマキでも頭に巻いてく?」
「ローリーったら…(笑)」
「よ~し、景気付けにいっちょ、雪だるまでもマジで作っちゃう?」
「え!?マジ?」

「なによ~自分だってほんとは遊びたいくせに~」
「だって寒いし~~」
「ほらほら!行くよ」
「もう~ローリー~~」

「早く!」
「うっひゃ~~さぶ~~い!ローリー~~さぶいよ~~」
「うるさい子ね~~」

「だって雪まで降ってきたよ。う~~~つめた~~い!」
「黙って作る!」
「ふふ…そう言えば昔ね、雪だるま作っては近所の男の子に壊されてさ。
幼馴染のリンダと二人で必死に雪だるまを守った記憶があるわ」

「んでいつも壊されるから出来上がった後、水をかけたの。そしたら凍るでしょ。でも翌日、
だるまの手を忘れてて、慌てて木を挿そうとしたんだけど、凍ってて挿せないの(笑)」
「ぶ~~~なにそれ~~マヌケ~~(笑)」
「でしょ?(笑)ローリーも昔よく作った?」

「いや、私は作るより壊す側だったから」
「ローリーらしい(笑)」
「ねえ、ローリー…。冬って好き?」
「う~ん…私は夏の方が好きかな~」

「あ、ローリーはそんな感じね。暑い灼熱の太陽に身を焦がす~~ってのが似合ってる」
「そう言うこのみは春って感じね。春一番って感じ」
「え~~そうかな~」
「だってあんた、爽やかじゃん。あんたの好きな季節って春でしょ?」

「ブッブー違いますぅ~。私はね、冬が好きなの。
寒いけど空気が澄んでて、雪がしんしんと降り積もった日はどこが厳かで…」
「だけどこれからは嫌いになりそうだな…。
冬になって雪が降ったら亮さんとの別れを思い出しそうで…」

「冬は別れの季節…ってどこかで聞いた事があるけれど…ほんとにそうね…」
「別れの季節か…。そう言えば数年前、あのロクデナシと別れたのも冬だったな…。
別れたと言うか捨てられたと言うか…」

「だけど春は出会いの季節じゃん。そして夏になり、燃えるような恋の季節の到来」
「で、秋は別れの予感がして…」

「そして冬には又別れが訪れる…」
「もう!さっきから別れる別れるって言わないでよ!
言っとくけど冬は別れの季節なんて私は聞いた事がないわよ!それを言うなら秋じゃん!」

「冬はさ、別れって言うより初恋の季節ね。うん、そうよ、そっちのが全然いい!」
「そうね(笑)」
ギュ…
「このみ…」

「これだけは忘れないで。私はどんな時でもあんたの味方だよ。
どんな形であれ、あんたが一番幸せになる方法を見つけて欲しいって思ってる」
「あんたが亮さんとの別れを決めたのは、よかれの事と思ってだよね。
それに春が必ずやって来るように、あんたにも必ず春が訪れるよ…」

「春一番のように突然、突風が吹いて、新しい出会いがやって来るんだ…。でしょ?」
「うん…うん…そうだね…。クスクス…ローリーってあったかい(笑)」

「ね、今の私、かっこよくなかった?惚れたっしょ?」
「ぷっ(笑)」
夜、PM7時

「亮さん!」
「すみません、待ちました?」
「いや、俺もさっき来たとこ」

「今日はすげ~ドカ雪だな。昨日までは全然降ってなかったのにな」
「ええ、思わず嬉しくて、ローリーと雪だるま作っちゃいました(笑)」
「そう言えば俺も子供の頃、よく作ったな」
「そうなんですよ。私もつい懐かしくて。リンダと二人で遊んでた時の事を思い出しました♪」

「へ~~。サンセットバレーも雪が多い町だからな。
それより寒み~な。早く入ろう。飯、コースを予約したけど、よかった?」
「わ~嬉しい!お腹が空いてるからいっぱい食べられそう!」
「また飯も食わず絵でも描いてたのか?」

「育ち盛りなんですぅ~~」
「はいはい(笑)」
「君の荷物、どれくらいになる?」
「え…」

「引越しの事だよ。荷造りが済んだら引越し業者に早いとこ言わなきゃならないから。
俺のと一緒に運んでもらう事になってるんだ」
「あ…ああ…そうですね…。なんか最近バタバタとしちゃって…」
「そんな事より亮さん、それ、もう食べないんですか?」
「もう食えない。腹いっぱい」

「じゃ私がもらってもいいですか?」
「おいおい、大丈夫か?」
「大丈夫です(笑)こう見えても私、大食いなんですよ~」
「って事は、結婚したら君の食費を大いに稼がなくちゃならないって事だな」

「クスクスクス…」
「食い終わったら向こうで少し飲む?」
「ええ、少しと言わず、いっぱい飲みたいです」

「どうしたんだよ、今日は。なんかいい事でもあった?」
「ふふ…さあ、どうでしょう…」
「亮さん…」
「ん?」

「私と亮さんが初めて会った日の事を覚えていますか?」
「覚えてる。確かリンダの家でだったよな?」
「はい。リンダから毎日、お兄ちゃん、お兄ちゃんって聞かされてて。
とっても素敵なのよって言うんだけど、でもそれは誰でも知ってる事でした(笑)」
「え?」

「だって亮さんはあの当時からとても有名でしたから」
「有名?…って…なんで?変な奴とかそんなんで?」
「まさか(笑)もちろん、背が高くてカッコよくてイケメンで!
あの町の女の子なら誰でも知ってる憧れの男の子だったんですよ!」
「うへ~それは知らなかったな」

「そりゃ~そうですよ~。あの頃の亮さんの瞳には、リンダしか映ってなかったしい~」
「へいへい、それは認めます」
「私も噂では聞いていたし、町でスレ違った事があったけれど、
でもリンダの家で初めて亮さんを目の当りにした時は、これは無理だ!」

「と、思いました(笑)」
「なにが無理?」
「こんなイケメンに恋なんかしちゃ、絶対におかしくなる!だから絶対に無理!って事です」

「なんだよ、それ(笑)」
「それに亮さんのリンダを見る目はもう~なんて言うか、愛おしいって言うか、そんな感じでした」
「だからそれはもう言うなって」
「だから私は亮さんの事は憧れの存在として、そしてリンダの大事な人として、
そんな風に亮さんを見る事が出来たんです」

「なに?じゃ君は俺の事はちっとも気にならなかった訳?これっぽっちも?」
「もちろんですよ!」
「な~~んか今それ聞くとムカつくな」
「嘘(笑)実はちょっとは気になってました(笑)」

「だろ?だろ?正直でよろしい」
「不思議ですね…。その亮さんが今…」

「私の隣にいるなんて…」
「なあ、俺の目を見てみ?」
「え?」

「俺の目。さて、何が映ってるでしょうか?」
「何がって…」
「ほら、ちゃんと見てみって。君が映ってない?
しかも愛おしそうに…目を細めて君を見てるのが分かるだろ?」
「やだ~」

「なにが やだ~ だよ」
「だってそんなセリフは亮さんにしか絶対に言えませんよ!しかもこんな間近で!
あ~顔が熱くなっちゃいます~(笑)」
「顔が熱い?」
「亮さんがそんなセリフを言うからです…」

「どれどれ…イケメンのお兄さんが確かめてあげましょう…」
「あ…」


「ほんとだ…顔が熱い…」
「亮さん…」
「このみ、よく聞いて」

「あの頃の俺は、確かにリンダしか見えてなかった。だけどそれは昔の話だ。
俺はもう、あの頃の俺じゃない。俺が今、いつも見ていたいのは君だ」
「俺は君が愛おしい…。何よりも…」

「君を毎日抱きたい…」
「もう!亮さん!」
「はは」

「亮さんったら絶対にスケベになりましたよね?」
「俺?俺は前からスケベでしたぁ~~」
「と言う事で今夜、俺の家に来なさい」
「クスクスクス…」

「俺、スケベなおじさんだから。今夜はおじさんと一緒にベットでネンネしようね」
「亮さんったら(笑)」
「さ、もう行こう」
「え…」

「雪がひどくなって来たらヤバイから」
「そうですね…」

「もう、行きましょう…」
「何か買うもんある?コンビニとか寄らなくていい?」
「いえ…何もありませんが……。だけど私…」


「亮さん…私ちょっと酔ったみたいなんで風にあたりたいんですけど…。
それに亮さんに話さなければならない事もあるし…」
「ああ、そうだった。わりー忘れてた。なに?愛の告白?な~んてな(笑)
ちょっと待って。その辺の公園に止めるから」
「公園じゃなくて……」

「ん?」
「海…海が見たいです…。海に連れてって下さい…」
「おいおい、海って…この真冬にか?しかも海へ行くには遠いな…。
あ、でも湖でいいならあるぜ。それならすぐ近くだ。でも寒いぞ?いいのか?」

「いいんです…そこへ連れてって下さい」
「了解。ちょっとだけな。凍え死んだらやべーし」
「おおお~~すげ~雪!吹き飛ばされそうだな、おい(笑)
しっかし、サンセットバレーの海には負けるけど、ここも中々見ごたえがあるな」


「海と言えば昔、サンセットバレーにいた頃は毎日海で泳いで真っ黒だったよ」
「私もよくリンダと一緒に暗くなるまで海で泳いでました」
「あの頃はよかったな…」

「何も考えず…ただ思いのまま遊んで…」
「どうした?サンセットバレーを思い出しちゃった?」
「そうかも知れませんね…」

「もうすぐ帰るよ。おれ達が育ったあの町へ…」
「そして二人で暮らして行くんだ。俺と、君と…」

「それから俺たちの子供と一緒にな…」
「私…今日は伝えたい事があったんです…」
「ん?」

「私…」
「何?」
「私…」

「サンセットバレーには帰りません……」
「え…」
「ごめんなさい…」

「帰れない?帰れないって……なに?どうした?」
「正直に言います」
「なんだよ…?」

「私…亮さんへの気持ちはあの頃のままだって気づいたんです」
「あの頃?どういう意味…?」
「とっても素敵で…みんなの憧れで…ちょっぴり気になってたリンダの大事な人…。
亮さんは私にとって、今でもそんな存在なんです…」

「だからどういう意味だよ…」
「亮さんにこの町で再会したあの時…私、失恋したばかりだったんです。
前にその事は言いましたよね?彼と別れたばかりだったって」

「あの時、明るく振舞ってはいましたが、でも本当は落ち込んでいたんです…。
そんな時でした、亮さんと再会したのは…」
「亮さんは昔と同じで、とても素敵でカッコよくて…そして有名人でした。
私は有頂天になっていました。こんな素敵な人の恋人になれたらどんなだろう…って…」

「そして実際に亮さんの恋人になれて、私は浮かれていました。でも…」
「でも…?」
「でも気づいたんです…。私はただ単に亮さんに憧れてただけだったんじゃないかって…。
そして失恋で傷ついた心を癒したかっただけなんじゃないかって…」

「さっきから何言ってんの?意味がよく分からないんだけど?」
(さあ、一世一代の大芝居をうつのよ。泣いたりなんかしないでちゃんと言うの…)

(そうしなければ、私達は必ず後悔する…)
だけど…
著作権者様から許可をいただいてお借りしているBGMです。
よろしかったらお流し下さい。音量にご注意ください。>
ええ…そうね…。だけど出来る事ならあなたの子供を産みたかった…
出来る事ならあなたと人生を共にしたかった。

出来る事なら……あなたの腕に永遠に包まれていたかった…。
でもそれはもう…叶わぬ夢です…。
亮さん…

私はあなたを愛してます…。
「つい先日…前の恋人と偶然会ったんです…」

「偶然?前の男?」
「そこで言われたんです…。もう一度私と付き合いたいと…。そして…」
「私と結婚したいと…」

「私、彼にプロポーズされたんです」
「結婚って…おいおい、ちょっと待ってくれよ…」

「だって君は俺と…」
それはあまりにも突然の告白だった。
彼は目の前が真っ白になり、足元からすべての感覚が抜けて行くのを感じていた。
彼女は何が言いたいのだろう。何がだと?ああ…何が言いたいのかは明白だ。

彼女はたった今、俺と一緒に行けないと言ったじゃないか。
そして昔の男の事を言い出した…。
つまり…
「簡単に言えばこういう事だ。俺への気持ちが昔のままだとかそう言うのはどうでもよくて、
ただ単に俺とは結婚できない。何故なら…」

「前の恋人とヨリを戻したいから…」
「こう言う事?」
「ええ、そう言う事です」

「なんだ…そう言う事か…」
亮は雪が猛吹雪になりつつある事も、そして凍りつくような寒さも、何も感じなかった。
まったく予期していなかった彼女の言葉に、ただ ただ驚くばかりだ。

いったい何が起こったんだ?
ついさっきまで彼女との結婚を疑いもしなかった。なのに何故…
「君は……その男の事がずっと忘れられなかったのか?」
「分かりません…。だけど亮さんと付き合ってからは忘れたと思っていました…でも…」

「でも再会して忘れてなかった事に気づいたって訳か…」
「けど私は亮さんの事は…」
「もういい!」

「もう…いいから…」
「分かっ…た…。君の気持ちは分かったよ…。
俺も男だ。君がそこまで言うのに女々しい真似はしたくない。このまま別れよう」

「亮さん…」
「ごめん、一人で帰ってくれないか…君を送ってやれない…」
「分かってます…」
「じゃ…悪いけど先に帰る…」


「お先に…」
亮はこぶしをギュッと握り締め、歩き出した。こんなにも怒りを覚えたのは何年ぶりだろう。
彼女への怒りも当然あるが、それよりも、自分の間抜け加減に怒りを覚える。

俺は一人で舞い上がっていたのか?
バタン!
今まで彼女が俺に見せたあの笑顔は全部嘘だったのか?
憧れ?リンダの大事な人?前の男と結婚?まるで振られ文句のオンパレードだ!


おかし過ぎて涙が出るよ…
「亮さん…ごめ……」

「ごめ……なさ…………」
春は出会いの季節。








夏は灼熱の太陽が恋人達を熱くし…
やがてうすら寒い秋が別れを予感する。





そして…
「さようなら…亮さん…」


その日、リバービューの街に本格的な冬が到来した。
続き、第45話へ 「空回りする粉雪」
二度目の恋…タイトル一覧は 「こちら」
ストーリー別一覧は 「こちら」
- パブ『ウオンテッド』-

(アルバイト先)
させ子と意気込んでデートをしてみたものの、今一つ思い切りが出来なかった鈴之介。
今度こそ沙織を忘れ、新しい未来に向かって歩き出そうとしたのに。

カチャ
「おはようございます…」




僕はどこか、おかしいのではないだろうか。
パタン…

そりゃ~多少?彼女も強引だった事は確かだけど、
でも普通の男性ならあんな時、間違っても逃げ出したりはしないはずだ。
それぐらい、僕にだって分かる。

それなのに僕と来たら…。
しかも僕は二度も同じ事をしてしまった。さぞかし彼女は傷ついている事だろう…。

「はあ~…」
「鈴之介、ちょうどよかった。これ、向こうのテーブルに持ってって」


(もしかしたら僕は一生、沙織さん以外の誰とも結婚どころか、
お付き合いする事や友好を深める事は出来ないのかもしれない…。僕は彼女を一生…)
「ねえ…聞いてんの?ちょっと!」

「鈴之介!」
「うわ!は、はい!」

「なに…その大袈裟な驚き。私はバケ物かってーの…」
「どうしたのよ、ボ~っとして…」
「す、すみません…」

「ちゃんとしてよ。これ、向こうのテーブルに持ってって」
「は、はい…」
「ったく。ボ~っとしたいのはこっちだっつーの…」


カチャ…
(今月…来るかな…。ほんとならあんなもん…煩わしくてちっとも待ち遠しくないのに…)

一方、ローリーはシルヴァーとのあの一件以来、毎日女性としての証が来るのを待っていた。
だが残念ながらその兆しはまだない。
ああ…私と言う人間は、何度同じ失敗を繰り返せば気が済むのだろう。
あの男のせいで人生を無駄にするのは、金輪際やめると誓ったはずなのに…。

あの男を殺してやりたい程憎い。だけどそれと同じぐらい、自分も憎くてたまらない。
でも何度そう思っても結果は変わらないし、時間を元に戻す事は不可能なのだ。
だとしたらいま私に出来ることは一つだけ…。
そう、例え自分の意思ではなくとも、もう同じ事を繰り返し、そして後悔する事はしたくない。

何故なら、もう自分も、そして赤ん坊も自分勝手の都合で傷つける訳には行かないからだ。
だから万が一、そうなってもちゃんと…
そうよ…大丈夫よ…。決してあなたを殺しはしない。
どんな結果になろうと、今度だけは必ずあなたを守るからね…。

だから心配しないで…。
「あ、いたいた」

「ローリー、ここにいたのね。姿が見えないからお休みかと思ったよ」
「このみ…」
「ローリー、どうしたの?お腹でも痛い?」

「う、ううん…そんなんじゃないのよ…」
「それよりこの間はごめん。あんたの気持ちも考えずに偉そうな事言っちゃってさ…。
そうだよね…監督の娘さんの命がかかってるとなると、そうな風に考えちゃうよね…」

「私ね、あの後思ったの。
もし私もこのみと同じ立場だったらきっと同じようにするだろうなって」
「どんなに好きでも、あの女にあんな事言われちゃったら、
きっと私も、亮さんと別れてあの娘を救おうとするだろうなって…そう思ったのよ…」

「それなのに私と来たら…
あんたの気持ちも考えず、勝手な事ばっか言ったね…ほんとにごめん」
「ローリー…」

「ううん…私こそごめんね。気持ちのやり場がなくてローリーにあたっただけだったの…
それにローリーの言う事はもっともだって私もちゃんと分かってる…」
「もっともな事なんて誰だって言えるよ。でも私はあんたの性格をよく知ってるもん。
凄く悩んで出した結論だって気づくべきだった」

「もう何も言わないよ。あんたが決めた事だもの。ただ私はあんたを見守るだけ…」
「で、いつ亮さんには言うの?別れようって……あんたから言うつもりなんでしょ?」
「うん…。亮さんには話があるって言ってあるけど…でも勇気が出なくて…」

「ほんとは毎日、今日言おうって思ってるんだけど…
でも色々と理由つけて先伸ばしにしてる。こうやってわざとバイトを入れたりとかさ…」
「このみ…」
「あーあ!」


「結局さ~~この世はお金なのかな~~」
「なんでよ?」
「だってさ!結局はあの麗華さんのお金に負けたんだもん。
私だってお金があれば、どんな事してでもルビーちゃんを助けてあげるのに!」

「私が麗華さんだったらな~。そうすれば私もルビーちゃんだけじゃなく、
亮さんのチームだって助けてあげ…」
「このみ、それは違うよ。例えあんたに莫大なお金があったとしても、
あんたはあの女のように、金に物を言わせて人の弱みに付け込んだりなんかしない」

「あんたはあの女のような真似は絶対に出来ないよ。それに今回の事で、
彼女は亮さんの体を手に入れられるかもしれないけど、心までは手に入れられないよ」
「だって私知ってるもん。亮さんがどんだけあんたに惚れてるか。
どんだけあんたを大事に思ってるか…どんだけ…あんたを愛しく思ってるか…」

「私は知ってるから…」
「ローリー…」

このみはローリーの言葉に涙が溢れ出た。
そう…彼が私を愛しく思ってくれる。それだけで私は大丈夫…。
「もう!ローリーは泣かせるのがうまいんだから~」

「ね、このみ、二人でさ、どこかパ~っと海外にでも旅行に行かない?何もかも忘れてさ♪」
「そうよ、まかり間違って絶世の美男子と出会えたりして?」
「ローリーったら(笑)」

「それともアラブの石油王とかに見初められたり?あ、あんたならありうる~
そしたらあの麗華なんて足元にもおよばないわよ~」
「ぷっ(笑)」
ああ…親友っていいな…。

リンダ…。リンダ以外に親友なんて出来ないと思ってたけど、それは間違ってたみたい。
私にはこんなにも力強い親友がもう一人出来たよ…。
-翌朝-


「寒いと思ったら雪が降ったのね…。空まで今日の気分にはピッタリ…」
「熱い恋の季節が終わり…そして別れの季節がやって来る…か…」

「ふふ…私って詩人…」
「さて…と…やるか…」

(もう決めたんだから早く言わなきゃ。グズグズしててもしょうがないしね…)
カチ…

(もう時間切れよ…)
「おい…」


「おいって!」
「亮、うるさい。テレビが聞こえないだろ?もうちょっと静かに喋ってよ」

「テレビじゃねーよ!お前、なんで毎日毎日ここへ来てんだよ!?
お前だって俺と一緒に向こうの街に移るんだ!引越しの準備しろって言っただろ~が!」
「だって…」

「なにが だって だよ!」
「だって……」

「だってなんだもん…」
「何言ってんだよ…」
「なあ…亮…このみちゃんにさ…
ローリーが電話に出ないんだけど、なんで?って聞いてくんね?」

「出ない?ずっと?へ~~それはさ、お前もしかしたら避けられてんじゃねーのか?」
ガバ!
「なんでだよ!」

「知るかよ、そんな事。お前またローリーに喧嘩腰に何か言ったんじゃねーのか?」
「え?そ、そんな事…言って…言って…」
「バーカ!せいぜい沙織にも『ふにゃ○○やろ~~!』なんて言われないようにね!」
「なんだとーーーーーー!」

「じゃね~ん♪ ふにゃ○○息子によろしく~」
「ふ、ふざけんな~~~!!!いいか!耳をかっぽじてよく聞け!俺の息子はな~~!」
「鉄より硬く!うまか棒よりぶっといんだぁぁぁ~~!!!」

「分かったか~~!!!」
「い、言ったかも?」

がちょ~ん
「とにかく、そんなにウダウダしてんだったら直接家に行ってみろよ!」
「でも…」

「でもじゃなくて!」
「だって…」
「だってだって言うな!!」


「亮様、このみ様からお電話です」
「このみから?ああ、今行く」
「とにかく!」

「お前はいますぐローリーの家に行け!いいか!」
「だって…」

「だってなんだもん…」
「今夜?ああ、そう言えば話があるって言ってたな。いいよ。じゃどっかで飯でも食うか」
「了解。じゃ7時に」


「はい、では後で」
カチ…
ああ…もう本当に後戻りは出来ない。今夜限りで彼の魅力的で…力強くて…

そして私を愛おしそうに見てくれたあの優しい瞳に包まれる事はもう、二度とないだろう…。
コンコン…
「ローリー、いる?」


「入るよ~」
「このみ。どうした?」
「ね、ローリー、外見て!雪が降ったみたい!真っ白なのよ!」

「見りゃ分かるっつーの」
「だよね(笑)」
「あれ?ところでシルヴァーさんは?」
「出て行った」

「え!?そうなの!」
「出て行ったって言うか追い出したって言うかさ…」
「そっか…。よかった。これでローリーはゴルゴさんに言えるね…」

「それはどうかな…」
「え…」
「このみ…。私ね、やっぱりゴルゴには何も言わない事にした」
「言わないって…どうして?」

「このみと一緒よ…。私にも色々と事情があるの…」
「事情って…」
「もうヤメ。その話は落ち着いたらちゃんとするから。ね?」
「でも…」

「でもはなし。それよりこのみはどうしたの?
何が用事があって来たんじゃないの?まさか雪だるまでも一緒に作ろうってか?」
「まさか…そんなんじゃないけど…でもローリーはゴルゴさんの事…」
「だからその話はいずれ話すってば。それよりほらほら、なによ?」

「うん…。ローリー…私ね、今日亮さんに会って言う事にしたの…」
「ついにか…」
「うん。だからね、今夜が最後がデートなんだ…」

「このみ…」
「自分で決めた事だし、後悔しないって決めたけど、いざ間近に迫ると怖くて…」
「そうだね…怖いよね…」
「ローリー…私ちゃんと言えるかな…亮さんに…ちゃんと…」

「もし嫌なら、今からでも遅くないよ…」
「ううん…それは出来ない…」
「そっか。だったら、自分で決めた事なんでしょ?胸を張っていざ、出陣するしかないね」
「出陣か…」

「ハチマキでも頭に巻いてく?」
「ローリーったら…(笑)」
「よ~し、景気付けにいっちょ、雪だるまでもマジで作っちゃう?」
「え!?マジ?」

「なによ~自分だってほんとは遊びたいくせに~」
「だって寒いし~~」
「ほらほら!行くよ」
「もう~ローリー~~」

「早く!」
「うっひゃ~~さぶ~~い!ローリー~~さぶいよ~~」
「うるさい子ね~~」

「だって雪まで降ってきたよ。う~~~つめた~~い!」
「黙って作る!」
「ふふ…そう言えば昔ね、雪だるま作っては近所の男の子に壊されてさ。
幼馴染のリンダと二人で必死に雪だるまを守った記憶があるわ」

「んでいつも壊されるから出来上がった後、水をかけたの。そしたら凍るでしょ。でも翌日、
だるまの手を忘れてて、慌てて木を挿そうとしたんだけど、凍ってて挿せないの(笑)」
「ぶ~~~なにそれ~~マヌケ~~(笑)」
「でしょ?(笑)ローリーも昔よく作った?」

「いや、私は作るより壊す側だったから」
「ローリーらしい(笑)」
「ねえ、ローリー…。冬って好き?」
「う~ん…私は夏の方が好きかな~」

「あ、ローリーはそんな感じね。暑い灼熱の太陽に身を焦がす~~ってのが似合ってる」
「そう言うこのみは春って感じね。春一番って感じ」
「え~~そうかな~」
「だってあんた、爽やかじゃん。あんたの好きな季節って春でしょ?」

「ブッブー違いますぅ~。私はね、冬が好きなの。
寒いけど空気が澄んでて、雪がしんしんと降り積もった日はどこが厳かで…」
「だけどこれからは嫌いになりそうだな…。
冬になって雪が降ったら亮さんとの別れを思い出しそうで…」

「冬は別れの季節…ってどこかで聞いた事があるけれど…ほんとにそうね…」
「別れの季節か…。そう言えば数年前、あのロクデナシと別れたのも冬だったな…。
別れたと言うか捨てられたと言うか…」

「だけど春は出会いの季節じゃん。そして夏になり、燃えるような恋の季節の到来」
「で、秋は別れの予感がして…」

「そして冬には又別れが訪れる…」
「もう!さっきから別れる別れるって言わないでよ!
言っとくけど冬は別れの季節なんて私は聞いた事がないわよ!それを言うなら秋じゃん!」

「冬はさ、別れって言うより初恋の季節ね。うん、そうよ、そっちのが全然いい!」
「そうね(笑)」
ギュ…
「このみ…」

「これだけは忘れないで。私はどんな時でもあんたの味方だよ。
どんな形であれ、あんたが一番幸せになる方法を見つけて欲しいって思ってる」
「あんたが亮さんとの別れを決めたのは、よかれの事と思ってだよね。
それに春が必ずやって来るように、あんたにも必ず春が訪れるよ…」

「春一番のように突然、突風が吹いて、新しい出会いがやって来るんだ…。でしょ?」
「うん…うん…そうだね…。クスクス…ローリーってあったかい(笑)」

「ね、今の私、かっこよくなかった?惚れたっしょ?」
「ぷっ(笑)」
夜、PM7時

「亮さん!」
「すみません、待ちました?」
「いや、俺もさっき来たとこ」

「今日はすげ~ドカ雪だな。昨日までは全然降ってなかったのにな」
「ええ、思わず嬉しくて、ローリーと雪だるま作っちゃいました(笑)」
「そう言えば俺も子供の頃、よく作ったな」
「そうなんですよ。私もつい懐かしくて。リンダと二人で遊んでた時の事を思い出しました♪」

「へ~~。サンセットバレーも雪が多い町だからな。
それより寒み~な。早く入ろう。飯、コースを予約したけど、よかった?」
「わ~嬉しい!お腹が空いてるからいっぱい食べられそう!」
「また飯も食わず絵でも描いてたのか?」

「育ち盛りなんですぅ~~」
「はいはい(笑)」
「君の荷物、どれくらいになる?」
「え…」

「引越しの事だよ。荷造りが済んだら引越し業者に早いとこ言わなきゃならないから。
俺のと一緒に運んでもらう事になってるんだ」
「あ…ああ…そうですね…。なんか最近バタバタとしちゃって…」
「そんな事より亮さん、それ、もう食べないんですか?」
「もう食えない。腹いっぱい」

「じゃ私がもらってもいいですか?」
「おいおい、大丈夫か?」
「大丈夫です(笑)こう見えても私、大食いなんですよ~」
「って事は、結婚したら君の食費を大いに稼がなくちゃならないって事だな」

「クスクスクス…」
「食い終わったら向こうで少し飲む?」
「ええ、少しと言わず、いっぱい飲みたいです」

「どうしたんだよ、今日は。なんかいい事でもあった?」
「ふふ…さあ、どうでしょう…」
「亮さん…」
「ん?」

「私と亮さんが初めて会った日の事を覚えていますか?」
「覚えてる。確かリンダの家でだったよな?」
「はい。リンダから毎日、お兄ちゃん、お兄ちゃんって聞かされてて。
とっても素敵なのよって言うんだけど、でもそれは誰でも知ってる事でした(笑)」
「え?」

「だって亮さんはあの当時からとても有名でしたから」
「有名?…って…なんで?変な奴とかそんなんで?」
「まさか(笑)もちろん、背が高くてカッコよくてイケメンで!
あの町の女の子なら誰でも知ってる憧れの男の子だったんですよ!」
「うへ~それは知らなかったな」

「そりゃ~そうですよ~。あの頃の亮さんの瞳には、リンダしか映ってなかったしい~」
「へいへい、それは認めます」
「私も噂では聞いていたし、町でスレ違った事があったけれど、
でもリンダの家で初めて亮さんを目の当りにした時は、これは無理だ!」

「と、思いました(笑)」
「なにが無理?」
「こんなイケメンに恋なんかしちゃ、絶対におかしくなる!だから絶対に無理!って事です」

「なんだよ、それ(笑)」
「それに亮さんのリンダを見る目はもう~なんて言うか、愛おしいって言うか、そんな感じでした」
「だからそれはもう言うなって」
「だから私は亮さんの事は憧れの存在として、そしてリンダの大事な人として、
そんな風に亮さんを見る事が出来たんです」

「なに?じゃ君は俺の事はちっとも気にならなかった訳?これっぽっちも?」
「もちろんですよ!」
「な~~んか今それ聞くとムカつくな」
「嘘(笑)実はちょっとは気になってました(笑)」

「だろ?だろ?正直でよろしい」
「不思議ですね…。その亮さんが今…」

「私の隣にいるなんて…」
「なあ、俺の目を見てみ?」
「え?」

「俺の目。さて、何が映ってるでしょうか?」
「何がって…」
「ほら、ちゃんと見てみって。君が映ってない?
しかも愛おしそうに…目を細めて君を見てるのが分かるだろ?」
「やだ~」

「なにが やだ~ だよ」
「だってそんなセリフは亮さんにしか絶対に言えませんよ!しかもこんな間近で!
あ~顔が熱くなっちゃいます~(笑)」
「顔が熱い?」
「亮さんがそんなセリフを言うからです…」

「どれどれ…イケメンのお兄さんが確かめてあげましょう…」
「あ…」


「ほんとだ…顔が熱い…」
「亮さん…」
「このみ、よく聞いて」

「あの頃の俺は、確かにリンダしか見えてなかった。だけどそれは昔の話だ。
俺はもう、あの頃の俺じゃない。俺が今、いつも見ていたいのは君だ」
「俺は君が愛おしい…。何よりも…」

「君を毎日抱きたい…」
「もう!亮さん!」
「はは」

「亮さんったら絶対にスケベになりましたよね?」
「俺?俺は前からスケベでしたぁ~~」
「と言う事で今夜、俺の家に来なさい」
「クスクスクス…」

「俺、スケベなおじさんだから。今夜はおじさんと一緒にベットでネンネしようね」
「亮さんったら(笑)」
「さ、もう行こう」
「え…」

「雪がひどくなって来たらヤバイから」
「そうですね…」

「もう、行きましょう…」
「何か買うもんある?コンビニとか寄らなくていい?」
「いえ…何もありませんが……。だけど私…」


「亮さん…私ちょっと酔ったみたいなんで風にあたりたいんですけど…。
それに亮さんに話さなければならない事もあるし…」
「ああ、そうだった。わりー忘れてた。なに?愛の告白?な~んてな(笑)
ちょっと待って。その辺の公園に止めるから」
「公園じゃなくて……」

「ん?」
「海…海が見たいです…。海に連れてって下さい…」
「おいおい、海って…この真冬にか?しかも海へ行くには遠いな…。
あ、でも湖でいいならあるぜ。それならすぐ近くだ。でも寒いぞ?いいのか?」

「いいんです…そこへ連れてって下さい」
「了解。ちょっとだけな。凍え死んだらやべーし」
「おおお~~すげ~雪!吹き飛ばされそうだな、おい(笑)
しっかし、サンセットバレーの海には負けるけど、ここも中々見ごたえがあるな」


「海と言えば昔、サンセットバレーにいた頃は毎日海で泳いで真っ黒だったよ」
「私もよくリンダと一緒に暗くなるまで海で泳いでました」
「あの頃はよかったな…」

「何も考えず…ただ思いのまま遊んで…」
「どうした?サンセットバレーを思い出しちゃった?」
「そうかも知れませんね…」

「もうすぐ帰るよ。おれ達が育ったあの町へ…」
「そして二人で暮らして行くんだ。俺と、君と…」

「それから俺たちの子供と一緒にな…」
「私…今日は伝えたい事があったんです…」
「ん?」

「私…」
「何?」
「私…」

「サンセットバレーには帰りません……」
「え…」
「ごめんなさい…」

「帰れない?帰れないって……なに?どうした?」
「正直に言います」
「なんだよ…?」

「私…亮さんへの気持ちはあの頃のままだって気づいたんです」
「あの頃?どういう意味…?」
「とっても素敵で…みんなの憧れで…ちょっぴり気になってたリンダの大事な人…。
亮さんは私にとって、今でもそんな存在なんです…」

「だからどういう意味だよ…」
「亮さんにこの町で再会したあの時…私、失恋したばかりだったんです。
前にその事は言いましたよね?彼と別れたばかりだったって」

「あの時、明るく振舞ってはいましたが、でも本当は落ち込んでいたんです…。
そんな時でした、亮さんと再会したのは…」
「亮さんは昔と同じで、とても素敵でカッコよくて…そして有名人でした。
私は有頂天になっていました。こんな素敵な人の恋人になれたらどんなだろう…って…」

「そして実際に亮さんの恋人になれて、私は浮かれていました。でも…」
「でも…?」
「でも気づいたんです…。私はただ単に亮さんに憧れてただけだったんじゃないかって…。
そして失恋で傷ついた心を癒したかっただけなんじゃないかって…」

「さっきから何言ってんの?意味がよく分からないんだけど?」
(さあ、一世一代の大芝居をうつのよ。泣いたりなんかしないでちゃんと言うの…)

(そうしなければ、私達は必ず後悔する…)
だけど…
著作権者様から許可をいただいてお借りしているBGMです。
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ええ…そうね…。だけど出来る事ならあなたの子供を産みたかった…
出来る事ならあなたと人生を共にしたかった。

出来る事なら……あなたの腕に永遠に包まれていたかった…。
でもそれはもう…叶わぬ夢です…。
亮さん…

私はあなたを愛してます…。
「つい先日…前の恋人と偶然会ったんです…」

「偶然?前の男?」
「そこで言われたんです…。もう一度私と付き合いたいと…。そして…」
「私と結婚したいと…」

「私、彼にプロポーズされたんです」
「結婚って…おいおい、ちょっと待ってくれよ…」

「だって君は俺と…」
それはあまりにも突然の告白だった。
彼は目の前が真っ白になり、足元からすべての感覚が抜けて行くのを感じていた。
彼女は何が言いたいのだろう。何がだと?ああ…何が言いたいのかは明白だ。

彼女はたった今、俺と一緒に行けないと言ったじゃないか。
そして昔の男の事を言い出した…。
つまり…
「簡単に言えばこういう事だ。俺への気持ちが昔のままだとかそう言うのはどうでもよくて、
ただ単に俺とは結婚できない。何故なら…」

「前の恋人とヨリを戻したいから…」
「こう言う事?」
「ええ、そう言う事です」

「なんだ…そう言う事か…」
亮は雪が猛吹雪になりつつある事も、そして凍りつくような寒さも、何も感じなかった。
まったく予期していなかった彼女の言葉に、ただ ただ驚くばかりだ。

いったい何が起こったんだ?
ついさっきまで彼女との結婚を疑いもしなかった。なのに何故…
「君は……その男の事がずっと忘れられなかったのか?」
「分かりません…。だけど亮さんと付き合ってからは忘れたと思っていました…でも…」

「でも再会して忘れてなかった事に気づいたって訳か…」
「けど私は亮さんの事は…」
「もういい!」

「もう…いいから…」
「分かっ…た…。君の気持ちは分かったよ…。
俺も男だ。君がそこまで言うのに女々しい真似はしたくない。このまま別れよう」

「亮さん…」
「ごめん、一人で帰ってくれないか…君を送ってやれない…」
「分かってます…」
「じゃ…悪いけど先に帰る…」


「お先に…」
亮はこぶしをギュッと握り締め、歩き出した。こんなにも怒りを覚えたのは何年ぶりだろう。
彼女への怒りも当然あるが、それよりも、自分の間抜け加減に怒りを覚える。

俺は一人で舞い上がっていたのか?
バタン!
今まで彼女が俺に見せたあの笑顔は全部嘘だったのか?
憧れ?リンダの大事な人?前の男と結婚?まるで振られ文句のオンパレードだ!


おかし過ぎて涙が出るよ…
「亮さん…ごめ……」

「ごめ……なさ…………」
春は出会いの季節。








夏は灼熱の太陽が恋人達を熱くし…
やがてうすら寒い秋が別れを予感する。





そして…
「さようなら…亮さん…」


その日、リバービューの街に本格的な冬が到来した。
続き、第45話へ 「空回りする粉雪」
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